JRAサウジC(G1)テーオーケインズら「惨敗」にホッ!? 4勝を挙げた日本馬「歴史的快挙」を素直に喜べない事情

ステイフーリッシュ

 日本時間26日夜から深夜にかけ、サウジアラビアのキングアブドゥルアジーズ競馬場で開催されたサウジカップデー。残念ながらダート王テーオーケインズらが挑んだサウジC(G1)こそ結果が出なかったものの、日本馬が4勝を挙げるなど「歴史的快挙」といえる一夜だった。

 中でも印象的だったのが、7歳の古豪ステイフーリッシュ(栗東・矢作芳人厩舎)がレッドシーターフハンデ(G3)を4馬身1/4差で圧勝したことではないだろうか。

 勝利騎手インタビューでC.ルメール騎手が「昨朝の調教が本当に良かった」と話していた通り、この辺りはさすが昨年の米ブリーダーズCで歴史的快挙を成し遂げた「世界の矢作厩舎」といったところだろう。

 だが、ステイフーリッシュは3歳春の京都新聞杯(G2)以来、4年ぶりの重賞制覇である。

 京都新聞杯勝利後、重賞2着が5回あるなど息の長い活躍を見せているが、日本ではどうしても一歩足りない頭打ちの存在だった印象は拭えない。そんなステイフーリッシュが海外で圧勝劇を演じたのだから、この馬を知るファンからしても大きな驚きだったに違いない。

「積極的にハナに立って、ペースを握ったルメール騎手の好騎乗が光ったレースでしたが、まさかあれほどの圧勝劇を演じるとは……。

ステイフーリッシュは3歳の菊花賞(G1)で11着に大敗して以来、中距離の重賞を中心に使われてきました。ですが、ルメール騎手が『距離も良かった』と話していた通り、長距離にも適性があるのかもしれません。レース後、矢作調教師も秋は3200mの『メルボルンC(豪G1)に向かいたい』と話していたそうです。それにしても、強いレースでした」(競馬記者)

 この勝利に色めき立つのは、やはり有力ステイヤーを抱える日本の各陣営だろう。

 なにせステイフーリッシュが勝利したレッドシーターフHはG3ながら、1着賞金が約1億7000万円もあるのだ。日本のステイヤーたちにとって春の大目標となる天皇賞・春(G1)でさえ、1着賞金は1億5000万円。

 単純な賞金だけなら、この2月にピークを持ってくる価値は十分にあるというわけだ。

「賞金額の高さも然ることながら、すでに“善戦マン”のイメージがあったステイフーリッシュが勝った意味は大きいと思いますね。それも圧勝でしたから『あの馬で勝てるなら……』と考える陣営は当然いるでしょう。

今年、レッドシーターフHに挑戦した日本馬はステイフーリッシュだけでしたが、来年以降のラインナップには注目ですね」(別の記者)

 日本の関係者にとって選択肢が増えたことは喜ばしい限りだが、記者曰くこの状況を手放しで喜べないのがJRAだという。

「海外へ日本の有力馬が遠征するということは、その馬が同時期の日本のレースに出走しないということ。日本馬の世界的快挙はJRAにとっても喜べますが、それで日本のレースが手薄になっては本末転倒です。

このサウジカップデーでも、今年のサウジCでテーオーケインズらが敗れたことは残念でしたが、先週のフェブラリーS(G1)のことを思えば一安心かも。JRAの関係者はなかなか複雑な心境だと思いますよ」(同)

 実際にフェブラリーSは2019年のサウジC誕生以来、大きな影響を受けている。

 JRAとしても単純にメンバーが揃わず売上が落ちる点にはまだ目をつぶれるが、問題はレーティングの低下によるG1降格の危険性があることだ。現にフェブラリーSは日本グレード格付管理委員会が定めたG1・レーティング115.0の基準を満たせておらず、G2降格の筆頭に挙げられている。

 仮にG2への降格が決まれば、売上減はメンバーが揃わないことの比ではない。競馬売上の多くは「G1だけ馬券を買う」というライト層で多くを占められているからだ。

 その一方、今年のサウジカップデーの結果で大きな危機を迎えるかもしれないレースが、もう1つあるという。

「フェブラリーSの前日に行われているダイヤモンドS(G3、芝3400m)ですね。毎年、天皇賞・春を目標にするステイヤーたちが集まるマラソンレースですが、今回のレッドシーターフHの結果は、来年以降に大きな影響をもたらすかもしれません。最悪の場合、グレード剥奪なんてことがあるかも……」(同)

 ちなみに日本グレード格付管理委員会が定めるG3のレーティングは105.0。ダイヤモンドSは昨年オーソリティが2着に好走したおかげで「すぐに降格ということはない」そうだ。

 だが、同じG3でも1着賞金4300万円のダイヤモンドSに対して、レッドシーターフHは1億7000万円。来年以降、ダイヤモンドSをパスしてサウジ遠征を試みる陣営が出てくる可能性は高い。

 今年のサウジカップデーで、合計4勝を挙げる歴史的快挙を成し遂げた日本競馬。しかし、日本関係者の“サウジブーム”を素直に喜べない事情もあるようだ。

(文=銀シャリ松岡)

<著者プロフィール>
 天下一品と唐揚げ好きのこってりアラフォー世代。ジェニュインの皐月賞を見てから競馬にのめり込むという、ごく少数からの共感しか得られない地味な経歴を持つ。福山雅治と誕生日が同じというネタで、合コンで滑ったこと多数。良い物は良い、ダメなものはダメと切り込むGJに共感。好きな騎手は当然、松岡正海。

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