JRA 2年目「新人2世騎手」に早くも正念場!? 無念の主戦降板から同期新人王が“一発回答”……弟デビューで示したい兄の貫禄
競馬界における2月・3月は別れの季節であり、新たな出会いの季節でもある。2月いっぱいで定年を迎えて引退する調教師がいる一方、3月からは新規開業の厩舎が動き出した。
また、3月最初の開催から新人騎手がデビュー。今年は10人のルーキーが騎手人生のスタートラインに立った中、初週は障害専門の小牧加矢太騎手を除く9名がキャリアの第一歩を踏み出す予定だ。
競馬学校を経ていない小牧騎手以外のJRA騎手課程38期生の9名の中で、成績優秀者に贈られる「アイルランド大使特別賞」を受賞したのが角田大河騎手(栗東・石橋守厩舎所属)。初週の乗鞍は8頭でいきなりの勝利にも期待がかかる。
名前を見たときにピンと来た方もいるかもしれないが、父は2001年にジャングルポケットで日本ダービー(G1)を制すなど、JRA通算713勝を挙げた元騎手で、現在は調教師として通算238勝を記録している角田晃一師。すなわち、昨年デビューした角田大和騎手の弟ということになる。
名前の3文字目までが「角田大」で一緒なので、今週から角田大和騎手は「角田和」、角田大河騎手は「角田河」の表記で出馬表に名前が掲載されることに。土曜の阪神2Rでは初の直接対決も予定されており、兄の大和騎手は所属する角田厩舎のシンギングロードに騎乗。自厩舎の馬で、父が手掛ける馬で弟に負けるわけにはいかない。「角田和=兄」という印象を競馬ファンの中に浸透させていくためにも、より一層の活躍が求められる。
■先週、騎手として屈辱的な出来事が……
プロ2年目にして早くも重要な局面がやってきた角田和騎手だが、実は先週のレースで大きな挫折を味わっている。
先週土曜の小倉3Rを勝ち上がった角田厩舎のデアリングウーマンだが、直近4戦の成績が「3」→「3」→「2」→「2」とクラス卒業にメドを立てながらもなかなか勝ち上がれなかった。その4戦の人気も「2」→「1」→「1」→「1」と、人気を裏切り続ける結果が続いていた。
このデアリングウーマンの主戦だったのが角田和騎手である。昨年4月から手綱を取り続け、6月には未勝利勝ちへと導いたものの、昇級後は壁にぶつかり、昨年12月以降は馬券圏内にこそ食い込みながら1着が遠い。先月13日のレースでは単勝1.8倍の支持を集めながら2着に終わっていた。
こうして迎えた先週のレースで、陣営はひとつの決断を下す。10戦続けて騎乗してきた角田和騎手ではなく、小沢大仁騎手を鞍上に手配したのだ。
勝負事に家族の絆や情を持ち込むのは禁物だが、主戦を降ろすという選択、それも同期への乗り替わりというのは、角田和騎手にとっても、そして角田調教師にとっても、複雑な心境であったことは容易に想像できる。
そんな中、勝利を託された小沢騎手は単勝1.8倍の支持に応える“一発回答”。一方の角田和騎手は、8着に終わったメイショウデージーの背中で勝負の世界の厳しさを改めて突き付けられた。
小沢騎手はルーキーイヤーの昨年31勝を挙げ、JRA賞最多勝利新人騎手にも選出された有望株。角田和騎手も昨年20勝を挙げているが、その差は「11」と大きく水をあけられた。今年に入っても小沢騎手は7勝を挙げてリーディング33位に対し、角田和騎手は3勝で同48位。さらに突き放されている状況だ。
しかし、1月終了時で見ると小沢騎手の4勝に対して、角田和騎手は3勝と食らいついていた。逆に言えば、ライバルが2月も3勝を積み上げた中、1勝も挙げることができなかったということ。角田和騎手にとってはデアリングウーマンの件も含め、流れに見放された2月だったと言える。
月が変われば、ツキも変わるか。噛み締めた勝負の世界の厳しさ、味わった悔しさに加え、今週からは弟が注目を浴びながら同じ土俵に上がってくる。闘志に火をつけるための燃料は揃っているはずだ。
3月戦線は競馬界に新風を吹き込む新人騎手だけでなく、後輩が入ってくる2年目騎手の意地にも注目。中でも苦しんだ2月を経て、逆襲に燃える角田和騎手に期待したい。
(文=木場七也)
<著者プロフィール>
29歳・右投右打。
本業は野球関係ながら土日は9時から17時までグリーンチャンネル固定の競馬狂。
ヘニーヒューズ産駒で天下を獲ることを夢見て一口馬主にも挑戦中。