JRA武豊「単勝1.1倍」圧勝も桜花賞の苦戦を予感、名牝と挑んだ15年前の一戦……。ウオッカ&ダイワスカーレット時代到来を予告していた!?
13日、阪神競馬場では桜花賞(G1)トライアルのフィリーズレビュー(G2)が行われる。武豊騎手は、2月に初勝利を飾ったマイシンフォニー(牝3歳、栗東・松永幹夫厩舎)とのコンビで参戦を予定している。
武騎手は前身の報知杯4歳牝馬特別時代を含めて、このレースにはこれまで22回騎乗し、3勝を挙げている。このうち最もプレッシャーを感じての騎乗は、アストンマーチャンで制した2007年だったのではないだろうか。
武豊ドウデュースに「手応えあり」もレースレベルに不安
マイルG1を2勝したアドマイヤコジーンの初年度産駒として社台ファームで生産されたアストンマーチャン。06年夏に小倉でデビューすると、父譲りの軽快なスピードを武器に、短距離で重賞2勝の活躍を見せ、阪神JF(G1)では、単勝1.6倍の1番人気に支持された。
ところが、このレースでアストンマーチャンを破ったのは、後にG1を7勝するウオッカだったが、当時はまだ4番人気の“伏兵”扱い。好位3番手のインを進んだアストンマーチャンの直後につけたウオッカは、直線外に持ち出されると、先に抜け出した大本命馬をゴール前で図ったように差し切り、2歳女王に輝いた。
アストンマーチャンも2着に敗れはしたものの、3着馬には3馬身半という決定的な着差をつけていた。この時点で、この2頭が桜花賞最有力候補として名前を挙げられていたのは言うまでもないだろう。
打倒ウオッカに向け、アストンマーチャン陣営は3歳始動戦にフィリーズレビューを選択。ウオッカは1週間前のチューリップ賞(当時G3)を制しており、まさに負けられない前哨戦となった。
数多くの1番人気馬に騎乗してきた武騎手だが、このレースのアストンマーチャンは単勝オッズ1.1倍という圧倒的な人気を背負っていた。
■単勝1.1倍で迎えた前哨戦
「チューリップ賞を快勝したウオッカと好勝負したという実績から1番人気は当然でしたが、阪神内回りの芝1400mは紛れもあり、出遅れは許されないコースです。並の騎手なら、平常心を保つのも難しいと思いますが、やはりそこは武騎手でした。1.1倍という人気を微塵も感じさせない落ち着いた騎乗で勝利に導きました」(競馬誌ライター)
6枠12番というやや外目の枠から好発を決めた武騎手とアストンマーチャン。阪神JFの時と同じように好位で競馬を進めると、直線楽な手応えで先頭に立ち、ノーステッキでの楽勝だった。
しかし、武騎手はこのレースで感じた手応えを07年3月14付けの自身のオフィシャルサイトの日記にこう記している。
「結果的に完勝でしたが、桜花賞に向けてとなると、折り合いという課題を完全に克服したとは言えない内容でした」
改めてレース映像を確認すると、確かに向正面で外から他馬に交わされた際、アストンマーチャンが行きたがっていたことが分かる。さらに武騎手は同日の日記に「1400mで戦わせてくれるのなら、この馬が一番強いと言ってしまえるのですが」と、桜花賞への不安を吐露している。
それでも本番の桜花賞でウオッカに次ぐ2番人気に推されたのはチューリップ賞2着のダイワスカーレットではなく、アストンマーチャンの方だった。
■名手も不安だった桜花賞の結果
結果はご存じの通り、3番人気のダイワスカーレットがウオッカの追撃をしのいで桜花賞を制覇。その後、ライバル2頭は幾度となく名勝負を繰り広げることになる。
実はそんな2強による一騎打ちを桜花賞前に予言していたのも武騎手だった。
さきほどの日記には続きがあり、武騎手はこう記していた。
「ウオッカ、ダイワスカーレットという2強に、『気持ちの悪い存在』と思わせるには十分でしょう」
フィリーズレビューを完勝したアストンマーチャンだったが、桜花賞に向けて武騎手の中ではあくまでもウオッカ、ダイワスカーレットに次ぐ存在だったのだろう。人気面で2強の間に割って入ったものの、アストンマーチャンは、初めて連を外し、7着に敗れた。それでも、その後はスプリント路線に専念すると、秋には3歳牝馬としては大偉業のスプリンターズS(G1)制覇を遂げたのだった。
ナミュール1強ムードが漂い始めた今年の桜花賞戦線。マイシンフォニーでトライアルに臨む武騎手は、レース後に何らかのヒントを日記に残してくれるだろうか。
(文=中川大河)
<著者プロフィール>
競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。