日本が「欧州絶滅」に追い込んだ”狂騒曲”の贖罪…ファルコンS(G3)トウシンマカオに「世界中」が熱視線!?

トウシンマカオ 撮影:Ruriko.I

 人間以上の競争社会に生き、それゆえに膨大な格差も存在するサラブレッドの世界には、若き頃から最高峰のタイトル「G1勝利」、そして牡馬なら「種牡馬入り」が義務付けられたようなエリートが存在する。

 例えば、父も母も複数のG1勝利を誇る超良血馬であったり、ノーザンファーム主催のセレクトセールの超高額馬は、デビュー前から多くの関係者、そしてファンからG1勝利を強く望まれている存在だ。

 そんな中でも、19日のファルコンS(G3)に出走を予定しているトウシンマカオ(牡3歳、美浦・高柳瑞樹厩舎)は、周囲の関係者だけでなく、世界的にも、G1勝利そして種牡馬入りが期待されている馬である。

 母ユキノマーメイドは4勝を挙げたものの、重賞の厚い壁に跳ね返された。半兄にはマイラーズC(G2)で2着したベステンダンクがいる。ちなみに昨夏のデビュー戦は単勝6.0倍の2番人気だった。

 関係者には失礼な話だが、これだけを見るとトウシンマカオがとても「G1勝利」、そして「種牡馬入り」が期待されているような馬には見えない。無論、血統や下馬評がすべてではないが、一般的にも昨年12月の朝日杯フューチュリティSでG1の壁に跳ね返されたばかりの馬に、未来のG1勝利を義務付けるのは少々酷な話だ。

 だが、それでもトウシンマカオにかかる期待は、周囲の同世代よりも遥かに大きい。

「実はトウシンマカオの父ビッグアーサーは、絶滅寸前のプリンスリーギフト系の種牡馬にあたります。

プリンスリーギフト系はかつて日本で大勢力を築いた系統で、中でもテスコボーイはリーディングサイアーにも輝いた名種牡馬。トウショウボーイやテスコガビー、サクラユタカオーといった現在でも語り継がれている名馬を数多く輩出しています。

しかし、現在プリンスリーギフト系で生き残っているサイアーラインは、テスコボーイ→サクラユタカオー→サクラバクシンオーのみと、非常に細いものになっています。

そういった中で昨年産駒がデビューしたビッグアーサーは、サクラバクシンオーの直仔にあたる貴重な種牡馬。中でも出世頭のトウシンマカオには、一部の関係者やファンから早くも熱い視線が注がれています」(競馬記者)

 1970年代の日本競馬界は、まさに“プリンスリーギフト狂騒曲”といえる時代だったという。

 プリンスリーギフト系は元々欧州を中心に繁栄していたが、日本が最初に輸入したテスコボーイが革命的な大活躍。さらに翌年に輸入されたバーバーから年度代表馬のカネミノブが輩出されたことで、一気にプリンスリーギフト系への関心が高まった。

 プリンスリーギフトの大ブームに包まれた日本の生産界は、挙って「第2のテスコボーイ」を探した。テスコボーイが決して優れた競走成績の馬ではなかったこともあって、まさに手当たり次第といった感じでプリンスリーギフト系の牡馬を“爆買い”したのである。

 その結果、欧州からプリンスリーギフト系の馬がほぼ絶滅してしまったというのだから、まるで漫画のような話だ。“狂騒”という意味では、1990年代のサンデーサイレンス・ブームを超える異常事態といえるだろう。

 そして、やがて欧州でプリンスリーギフト系は完全に消滅し、日本など本当にごく一部だけに限られる血統となってしまったのである。

「現在、現役のプリンスリーギフト系の種牡馬はビッグアーサーと、G1を2勝したグランプリボスのみ。グランプリボスも初年度は123頭に種付けと期待されていたのですが、ここまで目立った活躍をしたのは、昨年小倉記念(G3)を勝ったモズナガレボシだけ。昨年の種付け数は、わずか3頭と非常に厳しい状況です。

残念ながら、プリンスリーギフト系がここまで衰退してしまったことに対する日本競馬の責任は小さくないと言わざるを得ないですし、だからこそトウシンマカオらビッグアーサーの産駒には頑張って、その血を繋いでほしいですね」(同)

 果たして、世界的に1%にも満たないであろうプリンスリーギフトの血は再び日の目を見るのだろうか。それとも数々の消えた血統と同じように、このまま歴史に埋もれてしまうのだろうか。

 今週末のファルコンS挑戦にあたり、陣営から「1600mよりは1400mの方が良い」という話も出ているトウシンマカオ。豊富なスピードで成功してきたプリンスリーギフト系らしい馬ともいえる。もし、将来G1を勝てば、サクラユタカオーから続く4代連続のG1勝ちとなる。まずはファルコンSで、当面のG1出走を確実なものにしておきたい。

(文=銀シャリ松岡)

<著者プロフィール>
 天下一品と唐揚げ好きのこってりアラフォー世代。ジェニュインの皐月賞を見てから競馬にのめり込むという、ごく少数からの共感しか得られない地味な経歴を持つ。福山雅治と誕生日が同じというネタで、合コンで滑ったこと多数。良い物は良い、ダメなものはダメと切り込むGJに共感。好きな騎手は当然、松岡正海。

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