JRA武豊アウォーディーは26戦の“迷走”……イクイノックスと共に2歳女王サークルオブライフに完勝した「遅れ過ぎた大物」が11戦目で“悔しい”9馬身差の初勝利!
19日、東京競馬場で行われた3R・3歳未勝利は、3番人気のメンアットワーク(牡3歳、美浦・斎藤誠厩舎)が勝利。キャリア11戦目の初ダートで一変、最後は2着馬に9馬身差をつける圧勝だった。
「強かったですね」
能力が違った。16頭立てで行われたダート1600mのレース。絶好のスタートからすんなり好位につけたメンアットワークは、最後の直線で馬なりのまま先頭集団に並びかける横綱相撲。残り400mを切ったところで、鞍上の田辺裕信騎手のアクションが大きくなると、粘り込みを図ったプリンスミノルをあっさりと交わして先頭に躍り出た。
こうなると、あとは独壇場だった。結局、田辺騎手がムチを入れたのは、完全に抜け出してから気を抜かないようにする1発だけ。気付けの一発に応えるように、さらに加速したメンアットワークは後続に絶望的な差をつけると、最後は馬なりのままゴールした。
「初ダートでどうかと思いましたが、力が違いましたね。レース後、田辺騎手も『外から砂を被らずに運ぶことができた』と話していましたが、8枠16番からのスタートになったのも幸運だったと思います。
芝でも、いつ未勝利を脱出してもおかしくない走りを見せていたこともあって、ダートの使い出しが遅れた印象ですが、この走りならクラスが上がっても勝ち負けでしょう。走破時計も優秀でしたし、今後が楽しみな馬ですね」(競馬記者)
記者がそう話した通り、メンアットワークのデビュー戦は昨年8月の芝1800mだった。
世代トップクラスと芝で戦えたことが「トンネル」の入り口に…
後に皐月賞と日本ダービー(共にG1)で2着するイクイノックスには6馬身ちぎられたものの、後の2歳女王サークルオブライフに1馬身先着する2着に好走。芝のレースで高いパフォーマンスを見せた。
さらに2戦目の未勝利戦も3着に敗れたものの、勝ったアスクビクターモアは後の弥生賞ディープインパクト記念(G2)の勝ち馬。2着のアサヒも東京スポーツ杯2歳S(G2)の2着馬とくれば、メンアットワーク陣営が「芝でこそ」と思ってしまうのも当然だろう。ちなみに3戦目の未勝利を勝ったのは、今春に牝馬二冠を達成したスターズオンアースである。
そんな世代トップクラスに揉まれてきたのだから、メンアットワークが未勝利を勝ち上がるのは時間の問題といえたかもしれない。しかし、勝てそうで勝てないのが競馬の難しいところか。「次こそ順番が回ってくるはず」と思われて約10か月。1度も先頭でゴールすることがないまま、キャリアは10戦に膨らんでいた。
「ダートの使い出しが遅れてしまった馬といえば、2016年のJBCクラシック(G1)を勝ったアウォーディーが有名ですね。主戦の武豊騎手の『“会おう”ディー』というオヤジギャグが有名な本馬ですが、母が天皇賞・秋(G1)を制したヘヴンリーロマンス、父が日本ダービーを勝ったジャングルポケットということで、デビューしてから約2年半。キャリアにして26戦も芝を使われ続けていました。
ところが5歳の秋を迎えたところでダートのレースに出走すると、いきなり完勝。そのまま重賞5勝を含む6連勝でJBCクラシックを制し、一気にダート界の頂点に立ちました。競馬にタラレバは禁句ですが『もしデビュー戦からダートを使われていたら、どれだけ出世していたのか』というのは、今でもファンの語り草の1つですね」(別の記者)
アウォーディーは超レアケースだろうが、どんな馬でも芝かダートか主戦場を決めるのは、決して簡単ではない。特に片方でまずまずの結果が出ているケースならなおさらである。実際にアウォーディーも芝の目黒記念(G2)で4着という実績があり、もしダートを使って敗れていれば「陣営はなにをやっているんだ」と言われていたはずだ。
芝か、ダートか、結局のところ実際に使ってみるまではわからないケースが大半であり、同時にレースを使うということは当然リスクがあるだけに難しい。もし適性を見せることなく敗れれば、まったくの徒労に終わってしまうどころか、本来なら得られたはずの賞金を逃した格好にもなる。
「ダート適性が高かったのだと思います」
レース後、田辺騎手が「結果論」として、そう語ったのがすべてだろう。想定外の出世遅れとなってしまったメンアットワークだが、幸いにもまだ3歳の春が終わったばかり。本当の力を見せる機会は十分に残されているはずだ。
(文=銀シャリ松岡)
<著者プロフィール>
天下一品と唐揚げ好きのこってりアラフォー世代。ジェニュインの皐月賞を見てから競馬にのめり込むという、ごく少数からの共感しか得られない地味な経歴を持つ。福山雅治と誕生日が同じというネタで、合コンで滑ったこと多数。良い物は良い、ダメなものはダメと切り込むGJに共感。好きな騎手は当然、松岡正海。