JRA宝塚記念(G1)和田竜二「バテても止まってもいません」絶好チャンス逃がすも悔いなし…ディープボンドに「足りなかった」もの
またしてもG1の壁を破ることが出来なかった。
宝塚記念(G1)で4着に敗れたディープボンド(牡5、栗東・大久保龍志厩舎)は、デビューからここまでG1レースの出走が8回。昨年暮れの有馬記念(G1)でエフフォーリアに敗れたものの、グランプリ3勝を誇った女傑クロノジェネシスに先着する2着に好走した。
3歳クラシックでは無敗の三冠馬コントレイルの陰に隠れた存在ながら、古馬になってから頭角を現し、天皇賞・春(G1)でも2年連続で2着に入ったディープボンド。実績的にも現役トップクラスの実力馬の1頭だろう。
1番人気に推された前走の天皇賞・春でタイトルホルダーの後塵を拝したものの、動きの読めないカラ馬の影響もあり、マイペースの逃げに持ち込めたライバルとの間に7馬身ほどの差は感じられなかった。
そして、鞍上の和田竜二騎手にとっても、宝塚記念は4年前にミッキーロケットで制した好相性の舞台だけに、何としてでも勝ちたかったに違いない。G1の壁に3度跳ね返されたディープボンドにとって宝塚記念の舞台は、過去にこのレースで初G1タイトルを手に入れてきた先輩たちの偉業も心強い味方となるはずだった。
しかし、圧勝したタイトルホルダーとの着差は約4馬身と縮まったとはいえ、最後の直線で突き放されての完敗。勝ち馬に2分9秒7のレコードで走られては手も足も出なかった。勝負を賭けた大一番で高速馬場という敵も立ちはだかった。
「タイトルホルダーをマークして行こうというプランでした」
レース後に和田竜騎手がそう振り返った通り、前残りだけは許さないという強い意思を感じられる積極策で挑んだ。鞭を入れつつ追い上げを図ったが、最終コーナーを迎えた両馬の手応えの差は歴然。前の馬を捕まえるどころか、後ろにいたヒシイグアス、デアリングタクトに交わされてしまった。
「同じステイヤーでもレコード勝ちのタイトルホルダーとは、持っているスピードの違いを思い知らされましたね。パンサラッサが強引にハナを奪ったこともあり、1000m通過が57秒6というハイペースでディープボンドは追走が精一杯でしたから。
例年のように馬場の傷みが進んだ最終日ならまだよかったのですが……。気合と闘志が強く感じられた和田竜騎手の渾身の騎乗には満足しています。勝ちに行っての結果を不満に思うファンはそう多くないでしょう」(競馬記者)
ディープボンド「最大の弱点」が浮き彫り
ただ、今回の敗戦でG1になるとあと一歩足りないディープボンドの最大の弱点も浮き彫りになった気もする。騎乗内容としては申し分なかったことは確かなのだが、重の鬼という側面を持つディープボンドがスピードで見劣った事実は重大だ。
「勝負どころで加速できないし、この距離で真っ向勝負で力を出し切ったのでお疲れ様と言いたいですね。この馬はバテても止まってもいません」
この馬のことを誰よりも知っている和田竜騎手のコメントから伝わるように、トップスピードに限界のあるタイプ。アクセルを全開にしても後ろから交わされてはどうしようもない。
かといってスパッと切れる末脚も使えないのだから、この弱点を克服しないことには現代のスピード競馬でG1勝利は遠ざかる。そうなると、長距離戦や極端に馬場が悪くならなければ詰めが甘いままになってしまう。
秋の復帰戦がどのレースになるかはまだ分からないが、もう一皮剥けないと有馬記念まで出番がないかもしれない。
(文=高城陽)
<著者プロフィール>
大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。