「94連敗」の苦い過去も……新種牡馬たちの光と影
6月に入り、期待溢れる2歳馬たちが続々とデビューするなか、新種牡馬たちの活躍も日を追う毎に目立ってきている。
現2歳世代の一番星を飾ったダイヤモンドハンズの父サトノダイヤモンドをはじめ、6月早々からサトノクラウン、ミッキーロケット、デクラレーションオブウォーの産駒が勝利。
また、7月に入るとファインニードル、レッドファルクス、グレーターロンドン、ビーチパトロール、シャンハイボビー、マインドユアビスケッツ、ヤマカツエースなど新種牡馬たちの産駒が次々と初勝利を挙げている。
上述したグレーターロンドンやヤマカツエースなどのように、例え現役時代にG1を勝てずに引退した馬であろうと、種牡馬となって大物を輩出するケースだってあるのが競馬の面白いところ。
無敗の3冠馬ディープインパクトの兄として知られるブラックタイドは、生涯でG1勝ちこそなかったものの、種牡馬として天皇賞・春(G1)連覇を含むG1・7勝のキタサンブラックを輩出。種牡馬となってから驚きの成果を挙げる馬もいるのである。
ただ、やはり傾向としてはG1を勝たねば種牡馬となれる確率は低いため、現在活躍する種牡馬たちの多くはG1馬であることが多い。
とはいえ、現役時に大活躍した種牡馬たちが必ずや皆成功するかといえば、そんな事もない。サトノダイヤモンドのように一発目で初勝利を決めてしまう新種牡馬もいれば、予想外に苦戦を強いられるケースだってある。
かつては初年度産駒が2歳時に1度も勝つことが出来ず、94連敗した種牡馬も存在した。現役時にG1を2勝したグランプリボスである。
同馬は札幌でデビュー勝ちすると、京王杯2歳S(G2)と朝日杯FS(G1)を連勝して2歳チャンプに輝くなど早い時期から世代のトップに君臨。3歳時にはNHKマイルC(G1)を制すと、海外G1にも積極的に挑戦した。
古馬となってからも、ともに二桁人気だった安田記念(G1)で2度の2着に激走し、度々競馬ファンを驚かせた。同じくマイルCS(G1)でも2着に入るなど、主にマイル戦線で輝かしい実績を残している名馬である。
現在は世界的名トレーナーとなった矢作芳人調教師に初のG1勝利をもたらした馬でもあり、師も過去に『東京スポーツ』の連載で「いつ走るのかがわからない馬」「まるでアテにならないのに、底力だけは驚くほどある」と意外性のある能力を高く評価した逸材だ。
引退後は2015年から種牡馬入り。2018年から初年度産駒がデビューを果たした。グランプリボスが若い時から重賞戦線を沸かせたこともあって、産駒も早期からの活躍を期待された。
だが、待っていたのは厳しい現実だった。
6月1週目から続々とデビューするも連敗が続く苦しい展開。そのまま年末まで負の連鎖は続き、結局1勝も挙げることなく2歳馬たちは合計94連敗を喫したのだ。ようやく初勝利を飾ったのは、初年度産駒たちが3歳になった翌2019年1月。この大誤算を一体誰が予想できただろうか。
その後もなかなか重賞を勝つような大物は誕生しなかったが、昨年ようやく産駒のモズナガレボシが小倉記念(G3)を制し重賞初制覇を達成。ただ、周囲の期待を考えるとあまりにも遅すぎる印象は否めなかった。
現役時代に華々しくスポットライトを浴びたG1ホースたちが、種牡馬となったからといって必ずしも成功するとは限らない。グランプリボスのように、初年度産駒がデビュー年に一度も勝てなかった種牡馬がいるということも忘れてはならないだろう。
まだ始まったばかりとはいえ、新種牡馬たちにとっては今後を占う面でも早期にまずは1勝を挙げたいところ。ぜひ、今後の競馬を盛り上げる逸材を1頭でも多く輩出してくれることを願うばかりである。
(文=ハイキック熊田)
<著者プロフィール>
ウオッカ全盛期に競馬と出会い、そこからドハマり。10年かけて休日を利用して中央競馬の全ての競馬場を旅打ち達成。馬券は穴馬からの単勝・馬連で勝負。日々データ分析や情報収集を行う「馬券研究」三昧。女性扱いはからっきし下手だが、牝馬限定戦は得意?