横山武史「申し訳ない気持ち」エフフォーリア弟で贖罪の1勝
30日、札幌競馬場で行われた3R・3歳未勝利は1番人気のヴァンガーズハート(牡3歳、美浦・鹿戸雄一厩舎)が勝利。昨年のデビュー当初からクラシック候補として注目された素質馬が、3戦目で待望の初勝利を挙げた。
間もなく8月となり、9月の1週目が開催最終週となる3歳馬の未勝利戦。それだけに本来この時期の「1勝」は非常に大きいといえる。だが、関係者にとってヴァンガーズハートはそんな次元で一喜一憂する存在ではないはずだ。
何故なら、本馬は昨年の年度代表馬エフフォーリアの弟として、鳴り物入りでデビューしたからだ。
デビュー戦を「順当」に勝利かと思われたが…
「この場を借りて、この馬に携わる関係者の方々、この馬を応援してくださる方々に申し訳ない気持ちでいっぱいです」
レース後、とても勝利騎手とは思えないコメントを神妙に語ったのは、兄の主戦も務める横山武史騎手だ。昨年12月のデビューから約7か月で迎えた初勝利にも「本来なら、もっと早く勝てた馬です」と歯切れの悪い言葉が続いた。
「横山武騎手にとっては贖罪のような勝利でしょうね。というのもヴァンガーズハートは、昨年12月にデビューしましたが、“本来”であれば白星発進できていたと思います。しかし、ゴール手前で横山武騎手が追う動作を緩めてしまい、あろうことかゴール直前に交わされてしまいました。
当然、横山武騎手は油断騎乗として騎乗停止処分に。翌日、有馬記念(G1)を兄のエフフォーリアで勝った際のインタビューでも『僕の不甲斐ない騎乗によって騎乗停止になってしまった』『心の底から喜べない』と気にしている様子でした。
自分の騎手人生を変えたといっても過言ではないエフフォーリアの弟なのはもちろんのこと、生涯一度のクラシックを控えた大事な時期だったので、この1敗で大きく歯車を狂わせてしまったという思いがあるんでしょうね」(競馬記者)
昨年の有馬記念前日となる12月25日にデビュー戦を迎えたヴァンガーズハート。単勝1.7倍に支持された大本命馬は、最後の直線で一度は完全に抜け出したものの、横山武騎手が追う手を緩めたこともあって急激に失速……。上がり3ハロン最速の末脚で逆転ハナ差Vを飾ったルージュエヴァイユが後のオークス(G1)で6着する実力馬だったことも、陣営と横山武騎手にとっては不幸だったと言えるかもしれない。
その後に一息入れたヴァンガーズハートは3月の未勝利戦で復帰。確勝を期して単勝1.1倍という圧倒的な支持を集めたが、今度はノド鳴りの症状が出た影響もあって、まさかの3着に敗れるなど完全に当初の青写真が狂ってしまった。
「前走からノド鳴りの傾向があって、今回も調教から精神的にナイーブであまり前向きさが出ていなかったので、少し不安ではありましたけど、今日は地力だけで勝ってくれました」
この日のレース後、横山武騎手がそう語った通り、ヴァンガーズハートは2戦目の敗戦後にノド鳴りの手術を受けるため春を全休。兄に続く皐月賞(G1)制覇や、兄の雪辱を果たす日本ダービー(G1)制覇を期待された逸材だったが、1勝を挙げることにここまで時間が掛かってしまった。
「横山武騎手も『地力だけで勝ってくれた』と語っていた通り、素質はある馬ですよ。この日はデビュー以来最短の芝1500mのレースでしたが、父がエピファネイアからハービンジャーに変わったこともあってマイルは守備範囲。今後も1600m前後の出走が増えるかもしれません。
手術明けということもあって、今回はきちっと仕上げたわけではないでしょうし、まだまだ上積みが期待できる馬。現時点で兄と比較するのは可哀想ですが、今後も横山武騎手に乗り続けてほしいですね」(別の記者)
「暑い時期はあまり得意ではないかなと思うので、また休んでパワーアップしてくれると思います」
レース後、ヴァンガーズハートに改めて期待を寄せた横山武騎手。ファンはもちろん関係者にも待望の初勝利となったが、主戦ジョッキーは「まだまだこんなもんじゃない」と意気込んでいるに違いない。
(文=銀シャリ松岡)
<著者プロフィール>
天下一品と唐揚げ好きのこってりアラフォー世代。ジェニュインの皐月賞を見てから競馬にのめり込むという、ごく少数からの共感しか得られない地味な経歴を持つ。福山雅治と誕生日が同じというネタで、合コンで滑ったこと多数。良い物は良い、ダメなものはダメと切り込むGJに共感。好きな騎手は当然、松岡正海。