J.モレイラ騎手「呆然」の不合格から4年。世界の名手が日本へ「本気」になるサインとは
大手競馬ポータルサイト『netkeiba.com』にて16日に公開された『Road to No.1 M.デムーロ 世界一になる』で、JRA騎手免許試験を受験した当時を振り返っているM.デムーロ騎手。詳細はぜひ本企画をご覧いただきたいが、1人の騎手が外国で騎乗するということは、やはり一筋縄ではいかないようだ。
例えば、今春の米ケンタッキーダービー(G1)でクラウンプライドに騎乗したC.ルメール騎手が日本のNHKマイルC(G1)に騎乗できなかったように、外国で騎乗するということは必然的に自国の同時期のレースに騎乗することができない。
フランスの調教師が不満を露わに…
当時のルメール騎手のように1週だけならまだその影響も小さいかもしれないが、他国で短期免許を取得して数か月騎乗するとなれば、自国の関係者への影響は期間に比例して大きくなる。
「フランスの調教師、めっちゃ怒ってたね」
かつて何度も短期免許で来日し、日本の競馬ファンを沸かせてきたデムーロ騎手だが、当然その間、一方の関係者は「デムーロ不在」の影響を受けるというわけだ。仮に主戦を務めていた馬なら新たなジョッキーを探さねばならず、このフランスの調教師が不満を露わにするのも仕方がないというものだろう。
長期遠征する騎手には新たなステージで刺激や経験を得られるだけでなく、場合によってはデムーロ騎手やルメール騎手のように、そこへ残りの騎手人生を捧げられるような“出会い”が待っているケースもある。
ただその一方で、やはり自国の競馬への影響は大きいのかもしれない。
「現在、大野拓弥騎手がフランスへ長期遠征を敢行していますが、その存在を忘れてしまっているファンもいるのではないでしょうか。ほぼ毎年のように50勝以上を記録し、中堅騎手として多くのファンに親しまれている有力ジョッキーでさえ、たかだか約2か月間の不在でその存在感が大きく失われてしまうのは、騎手にとってはちょっとリスキーですよね」(競馬記者)
無論、すでに絶対的な存在となったルメール騎手なら、多少“バカンス休暇”を取っても影響はほぼ見られない。だが、長期遠征から帰国後の騎乗が約束されている騎手は、ほんの一握りだ。場合によっては、積み上げてきたものを手放さざるを得ず、一から出直しということにもなりかねない。
武豊騎手や川田将雅騎手など、海外武者修行を経てトップジョッキーに上り詰めている事実がある中、多くの若手ジョッキーが長期の海外遠征に二の足を踏んでいるのは、そういった事情があるためだ。
そう考えると、逆に毎年のように短期免許で来日している様々な外国人騎手たちは、本当に大丈夫なのだろうか。
「例えばR.ムーア騎手やO.マーフィー騎手の滞在時期を振り返ると、その多くが冬に限定されています。この時期は彼らが拠点としている欧州競馬がお休みで、主要なレースの開催もありません。つまり、ほぼノーリスクで日本へ長期遠征を敢行できるというわけです。
その一方でD.レーン騎手やH.ボウマン騎手が所属している豪州競馬は、日本と同じようにほぼ休みなく開催されています。
従って彼らが日本で短期免許を取得するのは、豪州競馬の事情というよりは日本で大きなレースが集中している時期。今年も春の連続G1開催期にレーン騎手が来日していましたが、最近ノーザンファームなどが強くバックアップしているのは、そういった“使い勝手”の良さもあります」(同)
JRA通年参戦への「サイン」とは…
また短期免許の外国人騎手と言えば現在、香港のC.ホー騎手が初来日で存在感を示している。
わずか約1か月の滞在ながら、すでにレパードS(G3)で重賞初勝利を挙げるなど、日本の競馬に順応しているホー騎手。日本の一部のファンや関係者からは、早くもデムーロ騎手やルメール騎手に続く将来的な通年免許の取得に期待する声も聞かれているようだ。
だが、前出の記者曰く「現状、具体的な話はないはず」という。何故なら、この時期はホー騎手が所属する香港競馬が休み期間であり、ムーア騎手やマーフィー騎手と同じように休みを利用して“出稼ぎ”にきたようなものだからだ。
逆に言えば、仮にホー騎手が夏以外の期間に日本で短期免許を取得するなら、それはJRA通年参戦への「サイン」と言えるかもしれない。
「短期免許で参戦した香港の名手といえば、J.モレイラ騎手の名を覚えているファンも多いのではないでしょうか。
モレイラ騎手も最初は夏季限定の短期免許でしたが、2018年には秋のG1シーズンを日本で過ごしています。その背景には『JRA騎手になる』という意思があったのですが、盤石と思われた騎手試験がまさかの不合格……。本人もかなりショックを受けていたようですが、その後再び香港に復帰したところ、やはりひと悶着あったそうです」(同)
記者が話す通り、日本での騎手試験に落ちてしまったモレイラ騎手は、再び香港での騎乗を希望したようだ。だが、香港ジョッキークラブ側から要請もあり、復帰シーズンはJ.サイズ厩舎との専属契約という限定的な騎乗に留まっている。モレイラ騎手に限らず一度、日本移籍の意思を示した以上「よそ者」という感覚を持つ香港の関係者がいてもおかしくはないのだろう。
「(JRAの)受験を諦めたということではない。数年後のことはわからない。5年後には日本に行っているかもしれない」とは当時のモレイラ騎手の言葉だ。あれから約4年が経ったが、昨シーズンの香港リーディングに輝くなど、無事復活できたことは日本の競馬ファンにとっても喜ばしい事実に違いない。
「ずっと日本に来たかった。たくさんのトップジョッキーがいますし、自分も世界的なジョッキーになりたい」
JRA重賞初勝利を挙げた際、そう日本競馬への憧れを語っているホー騎手。果たして、香港の名手がかつてのモレイラ騎手のように“本気”でJRA通年騎乗を目指す日は来るのだろうか。まずは次回の短期免許の「期間」に注目したい。