エリザベス女王とディープインパクトの間に意外な繋がり、日本競馬を裏から支えた“競馬好き”の影響力
8日、イギリスのエリザベス女王が崩御したとの一報が、世界中を駆け巡った。在位70年は長いイギリス王室の歴史の中でも最長かつ、世界で存命中の君主として最長の在位期間を誇った。イギリス国民からも愛された女王の崩御にイギリス中が深い悲しみに包まれた。
そんなエリザベス女王だったが、競馬発祥の地の君主だっただけに、とても熱心に競馬を庇護していたことは、日本の競馬ファンでも知るところだろう。
わかりやすいところでは、秋の牝馬チャンピオン決定戦、エリザベス女王杯(G1)に名前が残っている。レース名ならオーストラリアには2020年にダノンプレミアムがアデイブの3着に入ったクイーンエリザベスS(G1)が、香港には昨年ラヴズオンリーユーが勝利を飾ったクイーンエリザベス2世C(G1)などがある。
レース名に名前が残るほどなので、当然馬主や生産者としても大きな貢献をしている。イギリスの3歳クラシックも英1000ギニー(日本の桜花賞)、英2000ギニー(日本の皐月賞)、英オークス、英セントレジャー(日本の菊花賞)を持ち馬で制している。
偉大な女王陛下でも、最後までダービーを勝てなかったのは、彼女の国の首相であったウィンストン・チャーチルが残したとされる「ダービー馬のオーナーになるのは一国の宰相になるより難しい」を図らずも体現したと言えるだろう。
オーナーとしてはこの他にも女王の両親の名前を冠した欧州3冠レースのひとつ、キングジョージ6世&クリーンエリザベスSやディアヌ賞(仏オークス)、セントジェームズパレスS、ヨークシャーオークス、エクリプスSなど名だたるG1レースを勝ちまくり、優秀な馬主であった。
こうした大レースの勝ち馬は種牡馬や繁殖牝馬となり、後世にその血脈を残している。その血は日本競馬にも多大な影響を与えていることは意外に知られていないかもしれない。
エリザベス女王とディープインパクトの間に意外な繋がり
エリザベス女王の持ち馬に連なる血統でもっとも日本で成功したといえるのが、他ならぬディープインパクトである。父親は言わずと知れた米国産の名馬サンデーサイレンスだが、母系の3代母にハイクレアの名前がある。実はこのハイクレアを所有していたのが、エリザベス女王だったのだ。
ハイクレアは71年生まれの牝馬で、74年の英1000ギニーとディアヌ賞を制したクラシックホース。これ以外にもキングジョージ6世&クイーンエリザベスSで2着に入っており、自身も優秀な競走馬だった。
直仔には大レースを勝った産駒が出なかったが、孫の代になって英クラシック2冠を制したナシュワンや英チャンピオンS(G1)ほか重賞7勝したネイエフが出ている。この孫の代で生まれたのがディープインパクトの母であるウインドインハーヘアだ。ディープインパクトはハイクレアのひ孫に当たる。
エリザベス女王はこれを知っていたがために、日本で競走馬としても種牡馬としても大活躍したディープインパクトにはひときわ目をかけていた。自身が所有していた繁殖牝馬ディプロマを日本に送って交配させ、生まれた産駒をポートフォリオ、エデュケーターと名付けて所有していたほどだ。
このディープインパクトの半姉レディブロンドの直仔には帝王賞(G1)を勝ったゴルトブリッツ、孫にはダービー馬レイデオロの名前が連なる。全兄にはブラックタイドもおり、その子の代でキタサンブラックを輩出し、さらにその子の代は今年のクラシックを賑わせている。
この他、ハイクレアのひ孫にはNHKマイルC(G1)を勝ったウインクリューガーもいるなど、ハイクレアの血脈は日本競馬において活躍馬を多数送り出してきた。
エリザベス女王の持ち馬は、ハイクレア以外にもペルメルという英2000ギニーを勝った馬が、エリザベス女王杯を勝ったキョウエイタップの3代父や2冠馬ネオユニヴァースの母系に名前が残る。
このように日本競馬に深いつながりをもっていたエリザベス女王。崩御されたのは非常に残念なことだが、願わくば跡を継いだ新国王チャールズ3世もまた競馬に深く関わってほしいところだ。