天皇賞・秋(G1)「逃げ宣言」パンサラッサにジャックドール以上の難敵!?
今年の天皇賞・秋(G1)は、イクイノックスを筆頭に新進気鋭の3歳馬たちが、大きな注目を集めている。だがその一方で、レース展開のカギを握る存在として忘れてはいけないのが、パンサラッサ(牡5歳、栗東・矢作芳人厩舎)とジャックドール(牡4歳、栗東・藤岡健一厩舎)の2頭だろう。
逃げ馬として頭角を現した2頭は、8月の札幌記念(G2)で初対決。稀代の逃亡者ともいえるパンサラッサに対し、ジャックドールがどのように対処するのかもテーマとなった。
しかしいざゲートが開くと、期待されていた激しい主導権争いは起こらずに、ジャックドールが早々と番手に控えた。そのままパンサラッサが先頭に立つ形でレースは進み、4角から直線にかけてジャックドールが徐々に脚を伸ばして並びかける。最後は2頭の壮絶な叩き合いの末に、クビ差で交わし切ったジャックドールが勝利。ハナに拘ったパンサラッサを好位からマークしたジャックドールが競り落とす結果となった。
実はジャックドールを管理する藤岡師は春に金鯱賞(G2)へと挑む以前から「ここから先、重賞や大きいレースになるほど、このまま逃げ切りで勝つのは難しい」と脚質転換の必要性を仄めかしていた。逃げて圧勝した金鯱賞とは異なり、控える競馬を試みた大阪杯(G1)では踏ん張り切れずに5着に敗れることとなった。
だが、追試的な意味合いも含んでいた札幌記念では理想的な勝利を手にすることに成功。こうした経緯を踏まえれば、今回の天皇賞・秋においても好位につける競馬が濃厚かもしれない。
共同会見では管理する矢作師が堂々の逃げ宣言
一方のパンサラッサは札幌記念でも身上である逃げに徹し、レースの上がりが37秒前後を要するハイペースを演出した。肉を切らせて骨を断つような逃げでジャックドールに食い下がったレース内容は、敗れはしたものの十分に実力を感じさせるものであった。
26日に行われた共同会見では管理する矢作師が「ファンの方もそれを望んでいると思いますので、そういう(逃げる)競馬に徹したいと思います」と堂々の逃げ宣言。今回もハナに拘りレースを引っ張る、パンサラッサらしい走りを見せてくれるはずだ。
ジャックドールが札幌記念同様に控えるとなれば、それは逃げるパンサラッサにとっても好都合といえる。レース序盤の主導権争いにエネルギーを割くことなく、“単騎逃げ”の形でレースを運べることは、逃げ馬にとって理想的な展開といえるだろう。
とはいえ、天皇賞・秋には、ジャックドール以外にも警戒すべき相手がいる。それは、パンサラッサと同じく、逃げる競馬で好走してきたバビット(牡5歳、栗東・浜田多実雄厩舎)だ。
バビットは3歳時にラジオNIKKEI賞(G3)、セントライト記念(G2)と重賞を2連勝。昨年の中山記念(G2)で14着に敗れた後、屈腱炎を発症し長期休養を強いられていたが、約1年半ぶりの戦列復帰となった先月のオールカマー(G2)では4着と、上々の結果を残している。
このバビットの特筆すべき点は、そのキャリア10戦のうち8戦でハナを切ってレースを進めていることである。ハナを奪えなかったのはデビュー2戦目の未勝利戦と、距離に不安を抱えていた菊花賞(G1)のみである。
前走のオールカマーでも、長期休養明けとは思えないロケットスタートから先頭でレースを進めており、抜群のスタートセンスは全く錆びついていない様子。叩き2戦目となる今回はレース勘も状態も更に上向いているはずで、この馬の存在は単騎の逃げに持ち込みたいパンサラッサにとって脅威となり得るかもしれない。
奇しくもパンサラッサとバビットは、3歳時にラジオNIKKEI賞で対戦した経験がある。この際にはバビットがハナを奪い、2着パンサラッサに5馬身の差をつけて快勝している。
バビットが怪我に苦しんだこの1年の間に、大逃げの戦法に活路を見出して大ブレイクを果たし、海外G1を制するまでに成長を遂げたパンサラッサ。G1の大舞台でこの2頭が再びハナ争いを繰り広げる可能性は高いだろう。
2年前にはバビットがハナ争いもレースも勝利したが、果たして今回はどちらが先頭に立ってレースを進めることになるだろうか。天皇賞・秋の展開のカギを握ることになりそうな、2頭の逃亡者の再戦に注目したい。