ジャックドールのG1制覇はパンサラッサのお陰!? W豊がもたらしたそれぞれの栄冠、令和のサイレンススズカVSツインターボの「不毛な論争」に終止符
現役時代に稀代の快速馬として名を馳せたサイレンススズカ、玉砕覚悟の逃げでファンに愛されたツインターボ。大ヒットアプリ『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)にも登場する両馬はともに逃げ馬だ。1990年代に活躍した2頭が、現役時代から20年以上の時を経た2023年になってもファンに愛され続けていることは喜ばしい限りである。
その背景に先述の『ウマ娘』の影響が大きいことは周知の事実だが、現役馬として活躍するジャックドールとパンサラッサの存在もまた、ファンに過去の名馬の走りを彷彿させたのだろう。
一部のメディアやファンはジャックドールを「令和のサイレンススズカ」、パンサラッサを「令和のツインターボ」になぞらえたが、昨年の中山記念(G2)や天皇賞・秋(G1)で見せたパンサラッサの走りには、ジャックドールよりもパンサラッサこそが令和のサイレンススズカに相応しいという声も出始めた。そこへきて先日の大阪杯(G1)でジャックドールが見事な逃げ切り勝ちを収めたこともあり、同馬のことを再び「令和のサイレンススズカ」と評するメディアもあった。
「不毛な論争」に終止符
しかし、過去の名馬を引き合いに出すこのような “不毛な論争”には、もはや終止符が打たれたと考えていい。
何しろパンサラッサは昨年のドバイターフで既にG1馬の仲間入りをしただけでなく、今年はダートのG1となるサウジCをも優勝。単純にG1勝利数だけなら、既にサイレンススズカを上回っている。ここまでくると自身が“例えられる側”になったといえる。
また、ジャックドールについても悲願のG1タイトルを手にしたことで、令和のサイレンススズカから卒業したといっていいはずだ。そもそもこの馬は、どちらかというと時計の出る高速馬場を生かして好走するタイプ。馬場に関係なく自身の有り余るスピードで他馬をねじ伏せた偉大な先輩と比べるには少々無理があるようにも感じる。
一方でパンサラッサとジャックドールの関係もまた興味深い。2頭による初の直接対決となった昨年の札幌記念(G2)は、逃げたパンサラッサをゴール前で捕まえたジャックドールがクビ差で勝利。2度目の対決となった天皇賞・秋(G1)では、それこそサイレンススズカ級の大逃げを披露したパンサラッサが2着、ジャックドールは4着と後塵を拝した。
ジャックドールのG1制覇はパンサラッサのお陰!?
そこでひとつ視点を変えてみると、ジャックドールのG1勝利にパンサラッサが大きく関係している点も見えてくる。控える競馬で札幌記念を勝利したこともあり、逃げる競馬に拘らなくてもいいという想いが裏目に出たのが天皇賞・秋の敗戦だろう。
パンサラッサによる大逃げが話題となったこのレース。ジャックドールに騎乗していた藤岡佑介騎手はライバルを先に行かせる選択をしたが、バビットやノースブリッジより後ろの4番手という消極的なポジション取りも裏目に出てしまった。このため、最後の直線を迎えた頃にはパンサラッサと20馬身近くも離され、後続馬との瞬発力勝負にならざるを得なかった。
実際、ペース的には逃げたパンサラッサ1頭だけが超ハイペースで、残りの馬はむしろ超スロー。ジャックドール自身も上がり3ハロン33秒5の末脚を駆使したものの、32秒7という凄まじい切れで突き抜けたイクイノックス相手には分が悪かった。
それどころかパンサラッサも捕まえられない4着に敗れたのだから、一部のファンから鞍上の騎乗ぶりを疑問視する声が出たのも無理はない。その大半は「下げ過ぎ」「せめて2番手なら」「切れる脚のない馬で瞬発力勝負」というものだった。
だが、この敗戦を踏まえてかジャックドール陣営は苦渋の決断をすることになる。それが香港Cにおける藤岡佑騎手から武豊騎手への乗り替わりだ。しかもジャックドールを管理する藤岡健一調教師は藤岡佑騎手の父でもある。息子にタイトルを獲らせてやりたいという想いもあっただろう。
ただ、この決断がジャックドールのG1制覇を呼び込んだのだから、結果的に正解だったということになる。そして大阪杯にはジャックドール陣営の頭を悩ませたパンサラッサの姿はなく、武豊騎手の絶妙な逃げで念願のタイトルを手に入れることに成功した。
とはいえ、ライバルの走りに翻弄されたことで武豊騎手と出会ったジャックドール、吉田豊騎手とのコンビで快進撃の続くパンサラッサ。両馬の鞍上が奇しくもW豊だったことも不思議な縁だろうか。
現時点で2頭の対戦成績は2勝1敗でジャックドールがリード。中距離路線を歩む両馬だけに直接対決が実現する可能性は大いにある。「似て非なるライバル」が激突する4度目の舞台を楽しみに待ちたい。