M.デムーロ「8月全敗」を最後の最後に脱出、“サイレンススズカ級”の衝撃から2年…真価が問われる古豪と挑む「夏の王」獲り

 JRAの夏競馬もいよいよ大詰め。3日には新潟競馬場でサマー2000シリーズ最終戦の新潟記念(G3)が行われる。

 スプリント・マイル・中距離の各路線の王座を競い合う『サマーシリーズ』の中でひと足先に決着がつくのがこのサマー2000シリーズだ。昨年は残念ながら「該当者なし」で閉幕を迎えたが、今年も最終戦を前にした現段階で、王者の資格を満たしている馬は一頭もいない状況である。

 サマーシリーズの要項を改めて確認してみると、サマー2000シリーズは全5戦の対象競走のうち1勝以上を挙げ、かつシリーズの合計得点が13点以上であることが最低限の条件となる。

 本来であればこの条件を満たした候補の中から最も得点が高い馬を優勝としたいところだが、近年は条件を満たした馬がそのままチャンピオンに輝くという、やや盛り上がりに欠ける展開が続いている。

 もし今年も「該当馬なし」という結末を迎えることになれば、2006年のサマー2000シリーズ創設以来はじめての「2年連続該当馬なし」となってしまう。

 そこで注目したいのは、新潟記念でこの危機を阻止する可能性を唯一有しているマイネルウィルトス(牡7歳、栗東・宮徹厩舎)だ。

真価が問われる古豪と挑む「夏の王」獲り

 過去にはアルゼンチン共和国杯(G2)や目黒記念(G2)で2着に食い込んだ実績を持ちながら、これまでのキャリアで重賞での勝利はなし。昨年の函館記念(G3)も0秒2差の2着とあと一歩のところまで迫りながら惜敗を喫し、以降は脚部不安によって長らく戦線離脱を強いられた。

 脚元との闘いは1年にも及んだが、丸1年ぶりの出走となった前走の函館記念では4着と奮闘。陣営も『東京スポーツ』の取材に対して「よく走ったと思います。次につながる競馬」と手応えを得た様子で、叩き2戦目となる今回は悲願の重賞制覇に期待を膨らませている。

 7歳にして新潟コースを走るのは2度目となるが、その時も今回と同じ芝2000m戦だった。2021年4月の福島民報杯(L)。地震の影響で春の福島開催が中止となったことを受け、新潟競馬場で行われた一戦は同馬にとってオープンへの昇級初戦だったのだが、結果は2着に大差をつける完勝となった。

 JRAの平地オープン競走における「大差勝ち」は、1998年の金鯱賞(G2)を逃げてぶっちぎったサイレンススズカ以来で23年ぶり。それだけでなく、2着とのタイム差「1秒8」もサイレンススズカの逃亡劇とまったく同じだったこともファンの間で話題になった。

 しかし、金鯱賞のサイレンススズカの場合はそれを良馬場の条件で記録したのに対し、福島民報杯のマイネルウィルトスは雨の影響を大きく受けた不良馬場での戦いだったことに加え、強い向かい風を浴びながら長い直線を2度も通らなければならず、かなり時計のかかる特殊な条件下でのレースとなった。そのため、同じ「1秒8差の大差勝ち」でもその価値を懐疑的に見る声は少なくない。

 あれから2年と4カ月。ついにマイネルウィルトスが新潟・芝2000m戦に戻ってくる。その分だけ年齢も重ねているだけに、あの衝撃をもう一度というのは酷かもしれないが、今回が真価の問われる一戦となることは間違いない。

M.デムーロ騎手 撮影:Ruriko.I

 その重要な一戦で鞍上を任されたのが、同馬と過去4回コンビを組んで2着が3回あるM.デムーロ騎手。上述した3度の重賞2着はいずれもデムーロ騎手が導いたものであり、ジョッキーとしても“四度目の正直”にかける想いは強いはずだ。

 また、デムーロ騎手と言えば直近では“連敗”が一部で話題にもなった。JRAで挙げた最後の勝利は7月16日の福島3R(3歳未勝利戦)となっていて、なんと8月は月間0勝。現在74連敗中とトンネルの真っただ中にいる。

 JRAの通年免許を取得した2015年以降は4年連続で年間100勝以上を挙げていたイタリアの名手も、近年は年間60~80勝止まり。今年も8月を終えた時点で28勝に留まっており、通年免許取得後ワーストの成績に終わる可能性も徐々に高まってきた。

 成績の下降と重なるように有力馬への騎乗も減少していく中で、つい先日にはエージェントを変更して再び関西に拠点を移すことが発表されるなど、まさに騎手人生の岐路に立たされている状況と言っても過言ではない。

 それでも、もがきながら前に進むことで着実にトンネルの出口は見え始めている。中央競馬では8月に1勝も挙げることができなかったが、31日に佐賀競馬場で行われたサマーチャンピオン(G3)をサンライズホークとのコンビで優勝。待望の8月初勝利を交流重賞で掴んでみせたのだ。

 久しぶりの勝利の味を噛みしめながら、いざ9月反攻へ。マイネルウィルトスと挑む新潟記念はその第一歩として重要な一戦となる。

 思えば、成績が低下して苦しんでいた近年のデムーロ騎手に寄り添っていたのが「マイネル」でお馴染みのサラブレッドクラブ・ラフィアンであり、このタッグと言えばオークス馬・ユーバーレーベンのほか、2021年の新潟記念では12番人気のマイネルファンロンで勝利を掴んだ思い出も残っている。

 人馬とも“2年前”の記憶を力に、再び新潟の地で勝利の美酒に酔いしれることができるか。逆襲に燃えるデムーロ騎手と、夏の王を目指すマイネルウィルトスの大駆けに期待したい。

GJ 編集部

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