【徹底考察】安田記念(G1) モーリス「敵はライバルにあらず。世界のマイル王が戦う『本当の相手』とは」
【血統診断】
俗にいう「怪物」や「傑物」といった名馬の中には、完全に血統的な推測や傾向を超越した存在が現れるが、本馬モーリスもその一頭だろう。現役で血統的見地を大きく逸脱した活躍を見せているのは、本馬と菊花賞、天皇賞・春を制して現役No.1ステイヤーに登りつめたキタサンブラックが代表的だ。
ただ祖父のグラスワンダーは1400mから2500mまでの重賞勝利がある日本競馬史に残るオールラウンダー。父スクリーンヒーローはそんな祖父の影響を受けており、基本的には女傑ダイナアクトレスを有する母系の影響から有馬記念馬ゴールドアクターのように中長距離型の産駒を出すが、時として本馬やシンザン記念を勝ったグァンチャーレのようなマイラーも輩出する。
産駒が様々な距離で活躍するのは、母系の特徴や距離適性を引き出せるサンデーサイレンスなど超一流の種牡馬に見られる傾向だが、スクリーンヒーローの興味深いところは、母方の影響をあまり受けないところだ。
実際にモーリスの祖母メジロモントレーは牝馬ながら2500mのアルゼンチン共和国杯を制するなど、豊富なスタミナとパワーを持つ在来牝系。母父のカーネギーにしてもスタミナやパワーによった欧州配合だ。
従って、とてもモーリスのようなスピード溢れるマイラーが生まれる配合ではない。むしろモーリスがマイルで高いパフォーマンスを発揮できているのは、父グラスワンダーからの隔世遺伝の影響ではないかとしか血統的には推測できないくらいだ。
本馬の中長距離への挑戦を見てみたいのは、筆者だけではないはずだ。
≪結論≫
無論、ドバイターフ(G1)を勝ったリアルスティールは本馬にとっても油断ならない相手だが、それ以上に今回は自身の体調面が大きな取捨のポイントになりそうだ。ただ、2006年に香港馬のブリッシュラックがチャンピオンズマイルと安田記念を連勝しているように、決して不可能なローテーションではない。
また、モーリスを管理する堀厩舎はもともとコメントだけでなく、レースの使い方も慎重な傾向にあり、例え陣営のコメントのトーンが上がらなくとも、安田記念を使ってくるならば「戦える状態にある」とある程度信頼しても良いだろう。
ディフェンディングチャンピオンのコース適性を今さら語る必要はない。懸念されるのは時期的に大雨が降った場合だが、日本一水捌けの良い東京競馬場であることや、血統的な見解から大きな問題にはならないだろう。
あとは、いまだJRAの重賞勝ちがないT.ベリー騎手が日本ラストウィークで、祖国オーストラリアに良い”土産話”を持ち帰れられるかどうか、注目したい。