JRAアーモンドアイ「女王陥落」のシナリオ!? ヴィクトリアマイル「僕の馬の方が強い」相棒を信じ切り、最強女王に打ち勝った9年前の記憶
だが、アパパネと主戦の蛯名正義騎手は、そんな最強女王に真っ向勝負を挑んだ。レースは中団に構えたアパパネを、ブエナビスタががっちりマークする形。大本命馬に終始追走される厳しい展開だったが、鞍上の蛯名騎手は「『ついて来い』と。受けて立つつもりで『僕の馬の方が強い』という気持ちで乗った」と決して動じなかった。
当時、アパパネを管理していた国枝調教師が「相手はブエナビスタだと思っていた」と振り返った通り、陣営には勝算があった。
2400mのオークス(G1)でサンテミリオンと1着同着するなど、実は前年の牝馬三冠はアパパネ陣営にとって望外の偉業だった。何故なら、この年もあえてマイラーズC(G2)から始動していたように、アパパネは本質的に1600mがベストと考えられていたからだ。
一方のブエナビスタは、前年のヴィクトリアマイル以来の1600m。戦績を振り返っても、マイルがやや短いことは明らか。だからこそアパパネ陣営には「マイル戦ならブエナビスタに負けない」という自負があったのだろう。
アパパネは自分のレースを貫いた。直後に迫っていたブエナビスタを待たずに、自らのタイミングでスパート。それを待っていたかのようにブエナビスタも追撃を開始するが、蛯名騎手ら陣営にはそれを跳ね返すだけの自信があった。
結果は、アパパネがブエナビスタをクビ差抑え込んでの勝利。ゴール直後、蛯名騎手が珍しく派手なガッツポーズで喜びを爆発させている姿が印象的だった。
あれから9年。ここで燃え尽きたのかアパパネはその後、かつての輝きを取り戻せずに引退。一方、ブエナビスタは同年のジャパンCを制覇するなど、最後まで最強女王だった。
ただ、このヴィクトリアマイルに限っては、アパパネがブエナビスタを上回った。
最大の勝因は、アパパネを信じ抜き「勝つ競馬」を貫いた蛯名騎手や陣営の信頼関係だろう。ここまで培ってきた人馬の絆が大きな自信となり、ブエナビスタを必要以上に恐れなかったことが乾坤一擲の走りに繋がった。
今年のアーモンドアイが、かつてのブエナビスタ級の注目を集めることは間違いない。しかし、そんな“最強女王”を恐れない陣営にこそ勝機はあるはずだ。