元JRA安藤勝己氏に「騎手引退」を決意させた惨敗から9年。地方からの怪物ダンシングプリンスの「芝挑戦」に託された思い
「思い出に残っとるんは、勝った時よりも惨敗した京阪杯」
JRA通算1111勝、G1・22勝。笠松のトップジョッキーとして鳴り物入りで中央移籍を果たした“アンカツ”こと安藤勝己騎手は、中央競馬でもその手腕を遺憾なく発揮し、まさに一世を風靡したジョッキーだった。
そんな安藤氏にとって現役最後の騎乗となったのが、パドトロワと挑んだ2012年11月の京阪杯(G3)だったことは、輝かしい現役時代に埋もれる形であまり知られていない。
「状態良かったのに動かしきれんで、オレは引退を決意した」
パドトロワが競走生活を終えた際、公式Twitterを通じてそう自身の引退を振り返った安藤氏。件の京阪杯でパドトロワは6番人気だったが、好位から勝負所でズルズルと後退……15着惨敗という現実を突きつけられ、安藤氏は鞭を置くことを決意したようだ。
あれから8年経った2020年。元主戦騎手からも「種牡馬になれるのは何より」とエールを送られていたパドトロワから、1頭の「傑作」が大きく台頭した。
安藤氏と同じように、地方競馬から中央競馬にやってきたダンシングプリンス(牡5歳、美浦・宮田敬介厩舎)である。
もっともダンシングプリンスは一度、中央で挫折し、地方に移籍してから再び中央に帰ってきた、いわゆる出戻りだ。しかし、移籍した船橋で初ダートに挑むと、そこから破竹の3連勝。再び中央に戻ってからも勝利を積み重ね、連勝は6まで伸びた。
そんな地方から帰ってきた大物の連勝劇が止まったのが、初の重賞挑戦となった前走のカペラS(G3)だった。
その圧倒的なスピードを活かし、ダートでは常にハナに立ってきたダンシングプリンスだったが、ヒロシゲゴールドにハナを叩かれると、最後の直線では重賞常連の強豪ジャスティンに競り負け。レッドルゼルの差し込みも許し、3着に敗れた。
この結果を受け、陣営は大胆な策に出た。一昨年以来の「芝レース」への挑戦である。