【血と文学】最強モーリス、そして「言葉の錬金術師」と呼ばれたあの詩人と「意外で深い繋がり」に迫る
話を本題に戻そう。鬼神のごとき活躍で初のG1制覇を成し遂げたメジロボサツ。朝日杯で下したタシマユウホウ、ヒロイサミ、ハイアデスらがその後牡馬クラシック戦線で活躍したため、寺山修司自身も「桜花賞、オークスといったクラシックレースは約束されることだろう、と思ったのは私ばかりではなかった(「馬敗れて草原あり」)」と言っているように、周囲からは相当な期待を掛けられた。だが、桜花賞ではのちにテンポイントの母となるワカクモの3着に負け、オークスは雨でぬかるんだ馬場がたたり逃げたヒロヨシの2着に敗れる。
その後、函館記念を優勝したほかは目立った成績を挙げられずに引退。クラシック候補としての期待には答えられなかったものの、繁殖入り後はメジロ牧場における主流牝系のポジションを確立し、子孫からはG15勝のメジロドーベルをはじめ多くの重賞馬を送り出している。
モーリスはおそらく、この牝系の最高傑作になるだろう。当然ながら引退後は種牡馬入りがほぼ確実視されており、今後もメジロボサツの名は日本競馬の系譜に名を残すはずだ。
最後に、寺山修司がメジロボサツについて語った一文をここに記す。
「どういうものかメジロボサツという馬を見ていると、私は少年時代によく聞いた琵琶語りの『石童丸』を思い出す。
ほろほろと啼く山鳩の声きけば
父かとぞ思ふ 母かとぞ思ふ
という哀切をこめた石童丸の願いはメジロボサツの願いでもあるように思われたからである。」(「書を捨てよ、町へ出よう」)