「逃げ恥」どころか「逃げ勝ち」だった武豊騎手の2016年。かつての「溜め殺し」代表騎手が晩年に花咲かせた新たな才能 ~2016年プレイバック3~
しかし、そんな呪いにも似た「武豊はG1を逃げ切れない」という”ジンクス”を吹き飛ばしたのが、キタサンブラックだった。
コンビを組んで2戦目となった5月の天皇賞・春。前年の菊花賞馬として挑んだキタサンブラックは、グランプリホース・ゴールドアクターに次ぐ2番人気に支持された。
父はディープインパクト、ではなく全兄のブラックタイド。当時、ディープインパクト産駒による菊花賞並びに天皇賞・春の勝利例はなく、母父のサクラバクシンオーも含めて天才騎手が淀の長丁場をどうエスコートするのか大きく注目されたレースだった。
しかし、いざ蓋を開けてみるとスタートから果敢にハナを奪う外連味のない逃げ。最初から最後までレースの主導権を握ったまま、カレンミロティックとのマッチレースを制した。
武豊騎手にとってJRA・G1競走70勝目にして初の逃げ切り勝ちであり、ディープインパクト以来、10年ぶり7度目の春の盾。また、これは武豊が競馬界の「中心」に帰ってきた瞬間でもあった。
さらに記憶に新しいのが、JRA・G1競走71勝目となったジャパンCだ。
意外にもG1で1番人気になったのは、これがキャリア初だったキタサンブラック。基本的に人気になればなるほど不利になる”宿命”を背負う逃げ馬。さらにはキャリア唯一の大敗を喫した府中の2400mでどうか。
そんな期待と不安が入り混じった「1番人気ながら3.8倍」という微妙なオッズだったが、本格化したキタサンブラックには関係なかったようだ。小雨こそ降っていたが良馬場のジャパンCで”本命馬”が逃げて1000m通過が61.7秒は、今年になって冴えに冴える”ユタカマジック”の成せる業か。