有馬記念、「必勝の1枠1番」武豊キタサンブラックついに敗れる。度重なる過剰な幸運がアイドルホースの「天命」に落とした影
だが、キタサンブラックはそんな雑音を吹き飛ばす圧巻の走りでジャパンCを制覇。初めて1番人気に応えてG1を制したこともあって、その人気は現役馬の中でも抜けた存在となった。
このまま今年の競馬は北島オーナーと武豊騎手を中心に回り、キタサンブラックはまるで「大きな運命の力」に導かれるようにアイドルホースへの階段を駆け上がっていくようにも思われた。
だが、運命はここでまた大きな”いたずら”を与える。21日に公開で行われた有馬記念の枠順抽選会で、またも「1枠1番」を引き当てたのだ。
率直に述べて、公開された抽選方法に何らかの意図が入る余地は一切なかったはずだ。だが、それでもこれほどの「偶然」をすんなりと受け入れられる人はそう多くはないだろう。実際、現場に居合わせた司会の佐野瑞樹アナウンサー(フジテレビ)らは、あまりのめぐり合わせに興奮を隠しきれないといった様子だったし、ジャパンCの時から疑問を感じていたファンからすれば「いい加減にしろ」と言いたくもなるだろう。
「1枠1番」で4戦4勝だったキタサンブラックからすれば、これでグランプリ制覇に大きく近づいたことに間違いはない。
だが、この瞬間に今までは表面化していなかった本馬を非難するファン、つまりは”アンチ”の出現がネット上を中心に確認されるようになった。
無論、今はネット全盛の時代。多くの人々がある程度自由に発言できる状況が一般的になった今、アンチファンを持つことは、それが多大な影響力を誇っていることを表す一つのステータスともいえる。偶然とはいえ、キタサンブラックに非難の声が上がったのは、本馬が大きく活躍している裏返しに他ならないのだ。
だが、そんな反キタサンブラック派のファンの多くが「あのラッキーマンにお灸を据えてくれ」と頼りにしたのが、まだ古馬との対戦経験がなかった大器サトノダイヤモンドだった。
そんな中で迎えた有馬記念当日。馬券投票が締め切られる直前に1番人気の座がキタサンブラックからサトノダイヤモンドへ移った様は、まるで逃げ粘っていたキタサンブラックをサトノダイヤモンドが最後の最後で捕らえたレース本番の決着と重なるようだった。
もし、そうだとすれば、それはアンチファンだけでなく、サトノダイヤモンドを寸前で1番人気に押し上げたファンの総意だったのではないだろうか。多くの場合1番人気の馬というのは、同時に勝ってほしいと願う人が最も多いことを表しているのだから。
ファンの思いとレースの結果は関係ないという意見を否定するつもりはない。ただ、これは有馬記念だ。師走の中山2500mを走った上で、わずか0.1秒以下の”馬のクビの差”だけで決着してしまうのは、その馬の単純な能力の差の他に「天運」や「運命」といったものの存在を意識しないわけにはいかないのではないだろうか。
もしも、あの時、ほんのわずかでもサトノダイヤモンドに予期せぬ不利が働けば、着順は入れ替わっていたのではないか。
ただその一方で、競馬に「たられば」は付き物であり、今年の有馬記念を制したのがサトノダイヤモンドであるという事実は、これからも競馬史に燦然と輝き続ける。その積み重ねが競馬であり、巨大な魅力を持って多くの人を引き付け続けているのだ。
競馬ほど”紙一重”が大きくものを言う世界もそうあるものではないが、その水面下で明暗を分けているのは身体能力の範疇を超えた、ちょっとした、しかし大きな力を持つ「天運」や「運命」なのではないだろうか。