JRA「引退か、現役続行か」崖っぷちの“落ちこぼれ”が成し遂げたサクセスストーリー。小倉記念(G3)制覇モズナガレボシ、1年前は未勝利馬
15日、小倉競馬場で行われたサマー2000シリーズ第3戦・小倉記念(G3)は、モズナガレボシ(牡4歳、栗東・荒川義之厩舎)が勝利。最後方から全馬を差し切って、嬉しい重賞初制覇を飾った。
「まさか後ろからやられるとは……」
レース後、2着に追い上げたヒュミドールの幸英明騎手も驚きを隠せない切れ味だった。最後の直線を迎えて最後方だったモズナガレボシだったが、松山弘平騎手が大外に持ち出すと持ち前の末脚が爆発。短いことで有名な小倉の直線で、豪快にライバルたちを撫で斬った。
「レース後、松山騎手が『向正面でペースが上がったので、その辺も良かった』と話していた通り、展開がハマった面はあると思いますが、見ていて気持ちが良い末脚でした。最後の直線で大外に持ち出した競馬ぶりを見ると、ロスが少ない少頭数になったことも勝因の1つだと思います。
前走は3勝クラスで3着と格上挑戦の小倉記念制覇は、昨年のアールスターと同じ。6番人気とはいえ9頭立てですから、決して評価が高かったわけではありません。『自在性があって乗りやすい馬』と評している松山騎手の騎乗も見事でした。
それにしても1年前に、誰がこの馬が後に重賞を勝つと思っていたでしょうね……そう考えると今回の勝利は感慨深いものがあります」(競馬記者)
記者がそう話す通り、今から1年前、モズナガレボシは現役を続けられるかの崖っぷちにいた。前年11月にデビューしてから約10カ月で15戦、未だ勝ち星に恵まれずにいたからだ。
1つも勝ち上がれない“落ちこぼれ組”の競走馬にとって、未勝利戦の開催が終わる9月第1週は大きな区切りといえる。
その後は、さらに厳しくなることを承知で1勝クラスに挑むか、新天地を求めて地方競馬へ移籍するか、もしくはここで引退するかの3択がセオリーだが、モズナガレボシもまた、そんな競走馬としての瀬戸際に追い込まれていた。
ちなみにモズナガレボシの最後の未勝利戦は11番人気だった。デビューから戦ってきたダートに見切りをつけ、芝へ転向して2戦目。前走は5着だったものの、勝ち馬からは1.3秒も離されていた。
しかし、この最後の未勝利戦で0.2秒差の3着に激走したことが、モズナガレボシの運命を大きく変えたのかもしれない。この転機となったレースは、今回の小倉記念と同じ芝2000m。未勝利戦の期限が迫った7月から中1週で走り続け、最後は3連闘の末にたどり着いた3着だった。
その後、1勝クラスに挑むことになったモズナガレボシは、なんと3連勝。
この連勝を足掛かりに、この日の重賞初挑戦・初勝利につながるわけだが、1番人気だったファルコニアは、これがキャリア12戦目のレースだったことに対して、同じ4歳夏を迎えているモズナガレボシは、すでに23戦目。これだけを見えても、本馬と陣営の苦労が窺えるはずだ。
「乗りやすい馬で道中も楽でしたし、自分のやりたい競馬はできましたし、賢い馬で強かったと思います」
レース後、松山騎手から称賛されたモズナガレボシ。夏競馬では今も、追い込まれた競走馬たちによる生き残りを懸けた未勝利戦が続いているが、この“流れ星”は、そんな馬たちの希望の星になりそうだ。
(文=大村克之)
<著者プロフィール>
稀代の逃亡者サイレンススズカに感銘を受け、競馬の世界にのめり込む。武豊騎手の逃げ馬がいれば、人気度外視で馬券購入。好きな馬は当然キタサンブラック、エイシンヒカリ、渋いところでトウケイヘイロー。週末36レース参加の皆勤賞を続けてきたが、最近は「ウマ娘」に入れ込んで失速気味の編集部所属ライター。