JRA 「世界の壁」痛感させられた凱旋門賞(G1)現地競馬専門紙と優勝騎手が指摘した“敗因”
今週末のパリロンシャン競馬場では第100回目の凱旋門賞(G1)が開催される。これまで全て欧州馬が勝利している伝統のG1だが、節目の開催で新たに歴史に名を刻む馬は現れるのだろうか。
同レースの大きな特徴として年齢による「斤量差」が挙げられる。3歳牡馬が56.5kg、3歳牝馬が55.0kg、4歳以上牡馬が59.5kg、4歳以上牝馬が58.0kgを課せられる。そのため、同性の3歳馬と古馬で発生する「3キロ」の斤量差がレースのカギとなっている。
昨年まで99回行われている凱旋門賞だが、1番多く勝っているのが3歳馬だ。その数は、約6割に該当する60回と圧倒的に多い。また4歳馬は30回とまずまずの数字を残しているものの、5歳馬は8回で6歳馬は未勝利と、馬齢を重ねるに連れて優勝回数が大きく減少している。
そのため、3歳馬の凱旋門賞出走は、非常に有利ともいえる。特に日本の競馬ファンが「今年こそは」と、思って観戦したのが14年の凱旋門賞だった。この年は、3歳馬を含む日本馬3頭が出走していた。
その期待の3歳馬がハープスターだ。日本国内では7戦5勝7連対と抜群の成績を誇っており、父ディープインパクト譲りの鋭い決め手が武器。当時の3歳牝馬は54.5kgと現在より軽く、4歳以上牡馬とは5キロの斤量差があったため、父が果たせなかった凱旋門賞優勝の夢を託したファンも多かった。
また、他の2頭も凱旋門賞制覇が十分期待できる器だった。特に期待していたファンがいたのが、ジャスタウェイである。
同馬は4歳秋に天皇賞・秋(G1)を勝利してG1馬へ仲間入りを果たすと、一気に能力が開花。翌年3月のドバイデューティーフリー(G1)では、2着に6馬身以上の差をつけて圧勝。それらが評価されて、2014年ロンジンワールドベストレースホースランキング1位に躍り出た。
もう片方が「黄金の不沈艦」や「暴君」といった愛称で、今もなお親しまれているゴールドシップだ。
前走の札幌記念(G2)こそハープスターに僅差で敗れたが、2走前の宝塚記念(G1)では3馬身差の快勝で連覇を達成。スタミナが自慢の馬であるため、欧州のタフな馬場もこなせるのではと期待したファンも多かっただろう。
日本競馬の夢を乗せて出走した3頭だが、ジャスタウェイは五分のスタートを切って中団好位に取り付くも、他の2頭は出遅れて最後方からの追走を余儀なくされる。
3頭の位置は道中特に変わらずフォルスストレートを抜けて直線へ。ジャスタウェイは内へ、ハープスターとゴールドシップは大外を進路に選択する。ハープスターが大外から一気に末脚を伸ばし前へ詰め寄るが、ロスなく立ち回った欧州馬たちを追い抜くことができず6着。
また、ジャスタウェイ・ゴールドシップは本来の走りを見せることなく8着・14着に沈んだ。2頭を管理する須貝尚介調教師は「世界は甘くない。厳しい競馬だった。応援してくれた皆さんには申し訳ない気持ち」と、“世界の壁”を痛感した様子だった。
仏競馬専門紙『パリ・チュルフ』は、「現地での前哨戦を使わなかった」ことを日本馬の敗因の一つに挙げている。出走した3頭は現地で調整はしていたが、前哨戦は1頭も走っていなかった。
さらに優勝したT.ジャルネ騎手は「ロンシャンは特殊な競馬場。やはりそこを走った経験は非常に大事」と前哨戦を使うことの重要性をアピール。さらに「こちらのレースは戦略が大事。流れ、展開を読めないと勝てないんだ」とレース運びに苦言を呈していた。
14年の教訓を生かし、ディープボンド陣営は前哨戦のフォワ賞(G2)を挟み、馬を慣れさせる作戦で本番へ臨む。また、ディープボンド・クロノジェネシスどちらも欧州のレースに慣れたトップジョッキーを手配している。今年こそ日本競馬の悲願が達成されるか楽しみに待ちたい。
(文=坂井豊吉)
<著者プロフィール>
全ての公営ギャンブルを嗜むも競馬が1番好きな編集部所属ライター。競馬好きが転じて学生時代は郊外の乗馬クラブでアルバイト経験も。しかし、乗馬技術は一向に上がらず、お客さんの方が乗れてることもしばしば……