JRA「強過ぎた」がために逆風吹いたコントレイル、全弟サンセットクラウドがデビュー、最強の“逃げ馬” が歴史的栄誉と引き換えに遠ざかっていったファンの理想像
芦毛の弟は偉大な兄を超えることが出来るか。
16日、土曜東京の5R2歳新馬(芝1800m)では、サンセットクラウドが出走を予定している。父ディープインパクト×母ロードクロサイトという血統は、昨年の牡馬クラシックで無敗の三冠を達成したコントレイルの全弟にあたる。
デビュー戦の鞍上には兄の主戦も務める福永祐一騎手を確保した。栗東の坂路で行われた最終追い切りでは、古馬オープンのダノンファラオに先着と上々の仕上がり。同じくチームノースヒルズだけに、兄弟揃ってのG1制覇に期待が懸かる。
そんな弟に対し、兄のコントレイル(牡4、栗東・矢作芳人厩舎)は、秋の2戦を天皇賞、ジャパンCの両G1を予定していることが発表済み。有馬記念(G1)に関しては、「どう考えても得意な条件とは思えないし、そういうレースには出したくない。この2戦で引退します」と、矢作師は説明した。
だが、年内の引退が決まっていたコントレイルが、暮れのグランプリに一度も出走することなく、現役生活に別れを告げることについて、ファンの賛否が分かれたのも無理はなかった。
なにしろコントレイルは、2005年に無敗で三冠を達成したディープインパクト産駒でもある。同じ4歳で引退するとはいえ、父は三冠以降にも有馬記念、春の天皇賞、宝塚記念、凱旋門賞など多くのG1レースに挑戦したからである。
父のイメージを重ねたファンが、仔のコントレイルに対しても同じ路線を進んで欲しいと期待したのは不自然なことではなかっただろう。
こちらについては、当の矢作師もこれからコントレイルが想像を超えるような成長や可能性を見せてくれればという前提で、凱旋門賞(G1)に挑戦する可能性もゼロではないことを仄めかすコメントもしていたように、当時は満更でもなかったはずだ。
ただ、大きな期待を背負って出走したジャパンCでは、アーモンドアイの前に完敗。長距離適性を求められる春の天皇賞を避けて大阪杯(G1)に出走したものの、ここでも道悪に泣いた。そして、当初の予定に入っていた宝塚記念(G1)すら、疲れが抜けないという理由で回避せざるを得なくなってしまった。
そして、コントレイルの凱旋門賞挑戦が絶望的な状況となるどころか、挑戦を決定したのが同じくノースヒルズのディープボンド。この知らせには、どことなく「やはり……」という印象を抱かざるを得なかった。
他方で、個人的にはコントレイル陣営のこういった方針が、決して悪いことだけではないと考えている。同馬のこれまでのレース内容を振り返ると、力のいるような重い馬場に適性があるようにも感じられなければ、長距離適性も不安を抱えているという陣営の評価に異論はない。
種牡馬として一時代を築いたディープインパクトは、すでにこの世を去っており、後継種牡馬争いが注目されている。将来的なことを考えると、競走馬コントレイルよりも種牡馬コントレイルが優先されても仕方のない部分がある。
しかし、無敗の三冠馬という「肩書き」を手に入れてしまったことで、ファンからの逆風が強くなった。仮に皐月賞とダービーのみの二冠馬だったなら、これほどまで一部のファンから逃げた逃げたといわれることもなかったのではないだろうか。
陣営が認めているように、コントレイルは本質的に中距離までの馬であるが、あまりにも「強過ぎた」がために、本来適性がないはずの菊花賞(G1)を勝ててしまった。これにより、まるで相撲の横綱が品格を求められるがごとく、無敗の三冠馬であるコントレイルに対しても、挑戦を望むファンの声が強まったということかもしれない。
勿論、残り2戦も全力を尽くして走るコントレイルの姿を目に焼き付けたい。ひとつ心残りがあるとすれば、走る前から回避するのではなく、挑戦した上で結果が出なかったのなら……。否定的なファンの理解ももう少し得られたのではないかということだ。
(文=黒井零)
<著者プロフィール>
1993年有馬記念トウカイテイオー奇跡の復活に感動し、競馬にハマってはや30年近く。主な活動はSNSでのデータ分析と競馬に関する情報の発信。専門はWIN5で2011年の初回から皆勤で攻略に挑んでいる。得意としているのは独自の予想理論で穴馬を狙い撃つスタイル。危険な人気馬探しに余念がない著者が目指すのはWIN5長者。