JRA 池添謙一「世知辛い時代」自身も経験した悪夢、セリフォス降板を告げられた後輩に「もっともっと上手くなろう。頑張ろう」
来月19日の朝日杯FS(G1)へ出走予定のセリフォス(牡2歳、栗東・中内田充正厩舎)は新たな鞍上としてC.デムーロ騎手とのコンビで向かうことが分かった。
セリフォスは現在重賞勝ちを含む3戦3勝の2歳馬だ。6月の中京芝1600mで新馬勝ちすると、8月の新潟2歳S(G3)を上がり3ハロン32秒8の末脚を繰り出して重賞初勝利。そして、本番と同じ阪神芝1600mの舞台で行われた13日のデイリー杯2歳S(G2)では4コーナーで外へ膨れるロスがありながら、しっかりと勝ち切っている。
同馬のポテンシャルについて、元JRA騎手の安藤勝己氏は「アドマイヤマーズなんかに似て、走るダイワメジャー。マイルならいいところまでいける」「朝日杯FS要アリやね」と、Twitterで言及した好素材でありG1の舞台でも好勝負が期待されている。
対してセリフォスへ跨ることになったC.デムーロ騎手はイタリア出身の29歳で、JRAのM.デムーロ騎手の実弟だ。ミルコ騎手同様勝負強さに定評があり、昨年はソットサスで凱旋門賞(仏G1)を優勝した名手。今年のフォワ賞(仏G2)でも日本馬ディープボンドとのコンビで勝利するなどその実績は申し分ない。
まさに「鬼に金棒」状態となったセリフォスだが、一部のファンからC.デムーロ騎手の起用に関して同情する声も上がっている。その理由とは朝日杯FSの鞍上は既に前走も騎乗した藤岡佑介騎手に決定していたからである。
藤岡佑騎手は前走の勝利騎手インタビューにて「一度乗せていただいて、次はもっと上手く乗れると思うので頑張ります」と、締めて本番への決意を表していたばかり。このことから、セリフォス陣営は藤岡佑騎手へデイリー杯2歳Sと朝日杯FSのセットで騎乗依頼を出していたことが想像できる。
一見するとC.デムーロ騎手にパートナーを奪われたようにも映る今回の「非情」な乗り替わり。しかし、その原因は中内田厩舎がデムーロ騎手へ絶大な信頼を寄せている可能性が高いからではないかという。
「前走で何とかセリフォスを勝利へ導いた藤岡佑騎手ですが、元々主戦を任されていた川田将雅騎手のお手馬がブッキングしたための代打のような役割でした。
セリフォスに手応えを感じている陣営としては大一番のG1へ向けて、G1勝利実績で見劣る藤岡佑騎手より、世界的に知名度の優るC.デムーロ騎手が騎乗可能ならそちらを優先したということでしょう。
さらにC.デムーロ騎手は前回来日した18年に中内田厩舎のダノンファンタジーで阪神JF(G1)を優勝しています。牝馬でトップクラスといわれているダノンファンタジーですが、獲得したG1タイトルは現在までこの1つのみ。厩舎の主戦を任されている川田騎手でさえ、G1勝利に導くことが出来なかった馬だけに、C.デムーロ騎手の凄さが分かります」(競馬誌ライター)
また、今回の乗り替わりはファンだけでなく、現役のジョッキーも衝撃を受けたようだ。先週のマイルCS(G1)で中内田厩舎のグレナディアガーズへ騎乗した池添謙一騎手は、Twitterにて「俺も条件戦やけど乗り替わり。世知辛い時代に再突入」と、日本人騎手の置かれている苦しい状況を慮った。
池添騎手と言えば、12年・13年の凱旋門賞で主戦だったオルフェーヴルがC.スミヨン騎手へ乗り替わりとなる憂き目に遭っている。自身も乗り替わりで辛い気持ちになった過去があるだけに、今回のツイートを発信したのかもしれない。
オルフェーヴルの乗り替わりに関しては、主戦騎手なら矯正できた癖をテン乗りのスミヨン騎手が矯正できずに敗れたことから、現在ももしあのとき池添騎手が騎乗していたら……と悔しがるファンの声も根強い。
その一方で、各陣営から任せてもらえるだけの信頼を勝ち取れなかったこともまた厳しい現実である。
「もっともっと上手くなろう。頑張ろう」
最後にそう締めくくった池添騎手。プロである以上、結果でアピールするしかないのは紛れもない事実だ。
コロナ禍で中断していた外国人騎手の来日が再開したことにより、こういった乗り替わりはおそらくこれからも増えていくだろう。
果たして「非情」に徹したように思えるセリフォス陣営の「乗り替わり」采配は吉と出るだろうか。
(文=坂井豊吉)
<著者プロフィール>
全ての公営ギャンブルを嗜むも競馬が1番好きな編集部所属ライター。競馬好きが転じて学生時代は郊外の乗馬クラブでアルバイト経験も。しかし、乗馬技術は一向に上がらず、お客さんの方が乗れてることもしばしば……