JRA有馬記念(G1)「伝説の逃走劇」はキタサンブラックでも、ダイワスカーレットでもなく、あの馬!? 前走4馬身圧勝から狙うレジェンドの再現
26日、中山競馬場で行われる有馬記念(G1)。年末の大一番として、普段は競馬に興味を持たない人でも、このレースだけは特別とばかりに馬券を買うケースも多い。
実際に昨年の売上は464億円と、JRAで年間に行われる3000余レースの中でも群を抜いた売上高を記録。1996年の売上875億円は、1レースの売上最高記録としてギネスブックにも掲載されるなど、同レースは「日本で一番売れるレース」として、広く認識されている。
そんな世間の注目を集める過去の有馬記念では、数々の名勝負が演じられてきた。
中でも今なお語り継がれているのが、あれよあれよと逃げ切り勝ちを収めた“逃走劇”だ。有馬記念にグレード制が導入された1984年以降、逃げ切った馬はわずか4頭しかいない点も、我々競馬ファンに特別なインパクトを残している理由かもしれない。
記憶に新しいところでは、17年のキタサンブラック。絶好の2番枠を引き当てた“強運”も味方したか、スタートから先頭に立ち、序盤は12秒前後のラップを記録。中盤は13秒台に落とし、得意のロングスパートを決めた武豊騎手の絶妙なペース配分が演出した“逃亡劇”だった。
08年のダイワスカーレットも強かった。スタートから先手を奪い、軽快なピッチで飛ばしながら、最後の直線でもバテることなく先頭でゴール。牝馬として37年ぶりのグランプリ制覇を果たしたその勇姿は、10年以上過ぎ去った今でも色あせることはない。
オールドファンの間では、95年のマヤノトップガンも忘れられない一頭だ。それまでの脚質からガラリ一変。タイキブリザードやナリタブライアンに影をも踏ませず、大一番で初めて見せた田原成貴騎手の“逃げ戦法”は、周囲をアッと言わせた。
そして今でも語り継がれる“逃走劇”といえば、92年のメジロパーマーだろう。15番人気ながら逃げ切り勝ちを決めて、単勝4,940円の高配当を演出。その後のG1成績は3着、10着、10着、6着で引退した同馬は、まさに一世一代の“逃走劇”を演じてくれた。
今年の出走馬を眺めると、レースを引っ張りそうなのはパンサラッサ(牡4歳、栗東・矢作芳人厩舎)か。前走・福島記念(G3)では、前半1000mを57.3秒のハイペースで逃げたにも関わらず、4馬身差をつけて圧勝。ここでもペースの鍵を握る存在になりそうだ。
正直、並み居る強豪馬の胸を借りる同馬の格下感は否めない。しかしながら、管理する矢作厩舎の今年の成績は説明不要。春先は所属する新人女性ジョッキー古川奈穂騎手がデビューしたほか、先日引退した三冠馬コントレイルの大団円はご存じ通り。さらには海外でもブリーダーズCで1日2勝の快挙達成と、今年を象徴する厩舎といっても過言ではない。
そんな矢作厩舎が送り出すパンサラッサ。人気薄なだけにノーマークでレースを進めることができれば、前々走のオクトーバーS(L)から連勝中の勢いで、一世一代の“逃亡劇”を演じる可能性はある。今年を締めくくるドラマとしては、申し分ない一頭といえるかもしれない。
(文=鈴木TKO)
<著者プロフィール> 野球と競馬を主戦場とする“二刀流”ライター。野球選手は言葉を話すが、馬は話せない点に興味を持ち、競馬界に殴り込み。野球にも競馬にも当てはまる「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」を座右の銘に、人間は「競馬」で何をどこまで表現できるか追求する。