JRA蛯名正義「ダービー制覇」目前で散った夢、皐月賞馬から“孝行娘”に受け継がれた波乱の血! 桜花賞(G1)の番狂わせも予約済?
13日、中山競馬場ではアネモネS(L)が行われ、8番人気クロスマジェスティ(牝3歳、美浦・水野貴広厩舎)が優勝。1馬身1/4差の2着に入ったラズベリームースとともに桜花賞(G1)への優先出走権を獲得した。
「復帰週にいきなり勝たせて貰えてありがたいです」
レース後、そう語ったのはクロスマジェスティに騎乗した6年目の武藤雅騎手だ。昨年暮れに調教中の落馬で左膝を負傷し戦列を離れていたが、前日に復帰。2日目で快気祝いの勝利を飾った。
武藤騎手は3勝クラスの勝利経験こそあったが、オープンクラス以上はこれがうれしい初白星。師匠である水野調教師にも恩返しする形となった。
道中の積極的な手綱さばきも勝因の一つだった。好発を決めると、終始逃げ馬をマークする形で2番手を追走。直線では早めに抜け出して、後続の追い込みを完封した。
「この馬は優秀でセンスも良く、注文もつきません」と、クロスマジェスティの優等生ぶりを絶賛した武藤騎手。「(自身が所属する)水野厩舎の馬で桜花賞へ向かえることが嬉しいです」と、早くも4週間後の大舞台を見据えた。
そんな完勝劇にもかかわらず、クロスマジェスティが桜花賞で伏兵扱いされることは間違いないだろう。
「アネモネSと桜花賞はリンクしないと長らく言われ続けています。ただし、今年の勝ち馬は本番でも好走する可能性はあるかもしれません。勝ちタイム(1分34秒4)は、舞台が中山芝1600mに移った2000年以降で最速(タイ)ですし、陣営が以前から認めているように競馬の上手さが光ります。
また、血統的な魅力も感じますね。父のディーマジェスティはディープインパクトの直仔として、3歳春に急成長を遂げました。その初年度産駒であるクロスマジェスティと父の戦歴がそっくりなので、同様の成長曲線を描いていくかもしれません」(競馬誌ライター)
実際に2頭のデビューからの戦歴を比較してみると、酷似していることが分かる。
父は9月、娘は11月とデビューした時期は異なるが、ともに初戦は惜敗を喫した。さらに2戦目でもともに2着に敗れると3戦目でようやく初勝利。ここまでの流れが、ほぼ同じということが分かるだろう。
さらに格上挑戦で臨んだ4戦目で勝利したのも同じだ。父のディーマジェスティは共同通信杯(G3)に6番人気という伏兵としてレースに挑み1馬身1/4差で勝利した。この着差は奇しくも娘のアネモネSと同じである。
2連勝を飾り牡馬クラシックに名乗りを上げた父はその後、皐月賞(G1)で8番人気の低評価を覆し、「最強世代」と呼び声が高かったマカヒキやサトノダイヤモンドを一蹴。穴馬から一転して1番人気の支持を受けた日本ダービー(G1)では、蛯名正義騎手(現調教師)による悲願のダービー制覇の夢も背負ったが、3着と涙を飲んでいる。
一方、娘のクロスマジェスティも人気薄でアネモネSを制覇。2連勝で牝馬クラシック第1弾の桜花賞に向かうことになる。おそらく本番でも伏兵扱いされることは間違いないだろう。それを覆した父と同じように番狂わせを演じられるか。決して見過ごせない1頭となりそうだ。
(文=中川大河)
<著者プロフィール>
競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。