JRA「馬が走ってくれません」スタート直後の“レース拒否”に大反響!? 三浦皇成も打つ手なし……未勝利馬がまさかの「自己主張」で1か月の出走停止処分
「今日はどうにもやる気が出ないなぁ……」
誰しも人生一度はそんな思いになったことがあるだろう。この日のアドーニス(牡3、美浦・田村康仁厩舎)は、まさにそんな気持ちだったのかもしれない。
12日に東京競馬場で行われた2Rの3歳未勝利は、坂井瑠星騎手の2番人気ハリウッドフェームが、D.レーン騎手の1番人気コウソクブラックとの直線での激戦を制し優勝。デビューから7戦目にして嬉しい初勝利を挙げた。
ところが、レースの大きな注目を集めたのは、ゴール前の見応えある追い比べだけでなく、スタート時にもあった。稀にみる珍事発生に東京競馬場ではどよめきが起こった。
スタート直後の“レース拒否”に大反響!?
「おっと、5番のアドーニス……馬が走ってくれません」
実況アナウンサーの驚きの先にいたのがアドーニスだ。11頭立てのダート1600mで行われたレース。ゲートが開くと各馬が一斉にスタートを切るなか、同馬はトコトコと並足……走りだすことなく立ち尽くし、そのまま競走中止となってしまったのだ。
レースの大きな鍵を握るといっても過言ではないスタートでの致命的な出遅れ。今回のケースはただ出遅れただけでなく、そのまま進んでいかず、レースの参加を完全に拒否する形になってしまった。
特殊なケースだが、ゲートが開かれた以上、扱いとしては除外ではなく競走中止。“不戦敗”と言われても仕方ない結果だが、当然ながら返還もない。レース後には馬券を買っていたファンから怒りの声があがるかとも思われたが、掲示板やSNSなどでは「笑った」「ただただ可愛い」「許す」「走りたくない時もあるよね」など、同馬の立ち振る舞いに予想外の肯定的な声もあがっていた。上位人気馬でなかったことも、アドーニスにとっては不幸中の幸いだったかもしれない。
「競馬ファンの記憶に残っているスタート失敗の有名な例だと、2000年の皐月賞(G1)で発走直前に競走中止となったラガーレグルスや、2015年の宝塚記念(G1)でゲート内で立ち上がり大出遅れとなったゴールドシップなどが思い浮かぶでしょうか。
今回のようなケースでいえば、2020年にニシノジャガーズという馬が同じようにゲートが開いた後にそのまま立ち尽くし競走中止となる事象がありました。いずれにせよ馬券を買っていたファンからすれば悲劇でしかありませんが、競走馬も生き物なので当日の気分なども関係あるでしょうね」(競馬誌ライター)
その“気分”を害したかは定かではないが、アドーニスの近5走はゲートの位置が全て砂スタートだったのに対し、今回は東京ダート1600m特有の芝スタートだったことも少なからず影響していたかもしれない。実際、同馬はデビュー戦と2戦目は芝を使っているが、どちらもスタートで後手を踏む場面があり、芝からのスタートを得意としていない可能性もある。
なお、レース後JRAからは「アドーニスは、発走後に膠着したため競走を中止」との発表があり、さらに「同馬を2022年6月13日から2022年7月12日まで出走停止とし、停止期間満了後の発走調教再審査」との裁決が下っている。
現3歳世代の未勝利戦終了まで残りわずか。今回は主戦の江田照男騎手から前日に1日3勝の固め打ちをした三浦皇成騎手に乗り替わったことで一変の期待もあったが、それ以前の課題が残る内容に終わってしまった。
(文=ハイキック熊田)
<著者プロフィール>
ウオッカ全盛期に競馬と出会い、そこからドハマり。10年かけて休日を利用して中央競馬の全ての競馬場を旅打ち達成。馬券は穴馬からの単勝・馬連で勝負。日々データ分析や情報収集を行う「馬券研究」三昧。女性扱いはからっきし下手だが、牝馬限定戦は得意?