「夜想曲」奏でた武豊、“ダービー”通算10勝目!
年の差「50歳」のコンビが雨の降る大井競馬場で美しい旋律を奏でた――。
13日夜、大井競馬場では第24回ジャパンダートダービー(G1、以下JDD)が行われ、武豊騎手騎乗のノットゥルノ(牡3歳、栗東・音無秀孝厩舎)が優勝。4角付近で先頭に並びかける積極的な競馬で3歳ダート王に輝いた。
1番人気に支持されていたのは池添謙一騎手騎乗のブリッツファング。前走・兵庫CS(G2)ではノットゥルノに8馬身差の圧勝劇を演じており、初の大井参戦でも勝利に最も近い存在だと思われた。
池添騎手が前走と同じように積極的な競馬を見せたのも自信の裏付けだったはず。2番手追走から4角で早くも先頭に躍り出て、粘り込みを図ったが、兵庫CSの時ほどの手応えはなかった。直線半ばでノットゥルノに交わされると、最後は外からペイシャエスにも差され3着に敗れた。
レース後、池添騎手は「正攻法の競馬をしましたが、勝った馬にピッタリとマークされました」と振り返ったように、武騎手から受けた厳しいマークに屈した格好だ。
「やはり前走(兵庫CS)の勝ち方が圧巻でしたからね。分かっていたとはいえ、思った以上に厳しくマークされてしまいました。あとは馬場でしょうか。(デビュー2戦目の)ヒヤシンスS(L)で9着に敗れた時は重馬場でしたが、この日は不良発表。前日からかなりの降雨があり、まさに田んぼ状態でした。もしかするとこういう馬場は苦手なのかもしれません」(競馬誌ライター)
一方のノットゥルノは稍重経験が1度あったが、その時は2着。ここまで悪化したダート馬場は初めてだったが、まったく問題にしなかった。その上で武騎手が真っ先に勝因に挙げたのが馬の状態の良さだった。
武騎手は勝利騎手インタビューで「何より馬の状態がとにかく良かったです」と陣営の仕上げを称えると、「馬のリズムが良かったので、馬場状態も考えて、早めに、少し早めに動こうと思いました」と思い通りの騎乗ができた様子。そして、「僕自身、久しぶりにジャパンダートダービーを勝てて、日本ダービーとダブルダービー制覇ができて、非常に嬉しく思います」と白い歯を見せた。
武騎手の言葉通り、JDD制覇は実に久々。前回はカネヒキリとのコンビで勝利した2005年なので、17年ぶりの戴冠だった。JDD優勝は歴代最多の4度目。さらに今年は6度目の日本ダービー制覇も遂げている。同じ年に両ダービーを制したのは、02年、05年に続き3度目の快挙で、“ダービー制覇”は合計10度目と大台に乗せた。
「僕は53歳ですけど、馬はまだ3歳なので、一緒に頑張っていけたらと思います」
勝利騎手インタビューの最後は自身の年齢をネタにファンの笑いを誘った武騎手。翌14日には公式サイトの武豊日記を更新し、「馬名の意味は夜想曲。大井のナイターにピッタリでした」と愛馬の馬名由来にも言及した。武騎手ならレース前からこのフレーズを考えていたとしても不思議はないだろう。
日記では今週月曜と火曜に行われたセレクトセールにも顔を出していたことを明かした武騎手。活気が戻ったセリにも刺激を受けたようで、「いい馬からの騎乗依頼がいただけるように、日々の競馬で全力を尽くすのみです」と誓った。53歳を迎えても、その向上心はどんな若手や中堅騎手にも負けていない。
(文=中川大河)
<著者プロフィール>
競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。