【ケンタッキーダービー出走特別連載】託された思いと飽くなき挑戦。4人のホースマンの夢を繋いだ日本ダービー馬「絆(キズナ)」の物語<1>
今年3月にドバイ・メイダン競馬場で行われた『2016ドバイワールドカップデイ諸競走』。
1着賞金600万ドル(約5億円)のドバイワールドCを始めとした5つのG1が1日に開催される世界有数の競馬の祭典で、最も大きな”サプライズ”を起こしたのは、武豊とラニによる日本競馬史上初のUAEダービー(G2)制覇だった。
もともと高い素質を評価されていたラニだったが、日本での戦績は5戦2勝。2月のヒヤシンスS(OP)でも5着完敗とあって当初は「無謀な挑戦」といわれていた。
ところが今はUAEダービーを制し、今週末に迫ったアメリカ競馬最高峰のケンタッキーダービー(G1)に歴史的な挑戦をしようとしている。
今年の元旦早々、ノースヒルズグループの代表・前田幸治が所有馬3頭のドバイ参戦を決めると同時に、武へ騎乗を依頼したことから、この”挑戦”は始まった。武はこれを「前田代表から『全部乗れ』といわれている。励みになる」と快諾。
いつか日本の馬でフランスの凱旋門賞(G1)やアメリカのブリーダーズC(G1)を勝つ――。日本の馬による世界制覇。これこそがホースマン前田が武と描こうとしている”世界を股に掛けた壮大な夢”だった。
かつて、そんなホースマンたちの飽くなき夢を叶える寸前のところまで登りつめた馬がいた。
それこそが2013年のダービー馬『キズナ』である。
遡ること2011年の4月。東日本大震災から僅か1か月後、前田は所有馬のトランセンドとともにドバイワールドCを迎えていた。東北を中心に日本全土を襲った未曽有の災害の直後、深刻なライフラインの復旧に追われる中、「競馬」はその存在意義が問われていた。
あまりにも大きな問題に対し、すでに1000万円の義援金を収めていた前田ができることは、トランセンドの世界制覇をもって日本の競馬ファンに勇気を届けること……。しかし、渾身の仕上げで臨んだトランセンドは、最後まで見せ場を作るも2着。勝利を飾った同じ日本馬のヴィクトワールピサに、主役の座を譲る形となった。
世界の頂点を決めるドバイワールドCで日本馬がワン・ツー。それも震災から僅か1月余りでの偉業だからこそ、日本の快挙に世界中の人々から温かい拍手が届いた。そして脇役に甘んじた前田は世界中の人々から励ましの言葉をもらう中、人の繋がりの強さに改めて感動して、こう心に誓っていた。
次にもし、世界を狙えるような馬に出会ったら『キズナ(絆)』と名付けよう、と――。