23年前の「神風」再び…西山茂行オーナー“青雲の霹靂”でコントレイル、イクイノックスらと並ぶ「第5のG1馬」に
「まだ早いよ(笑)。まだ皐月賞も走ってないですから」
筆者が西山茂行オーナーに初めてお会いしたのは、今から3年前の3月のことだ。皐月賞トライアルの弥生賞(G2)を直前に控え、取材したニシノデイジーは当時、札幌2歳S(G3)、東京スポーツ杯2歳S(当時G3)という2つの出世レースを制したクラシック候補だった。
西山オーナーにとって、ニシノデイジーはセイウンスカイとニシノフラワーの血を持つ、まさに結晶のような存在だった。「何とかセイウンスカイの血を残したい」という思いで、期待の繁殖牝馬ニシノフラワーと配合させたのが、本馬の祖母のニシノミライである。
その名の通り、セイウンスカイの血は「未来」へとつながったのだ。
筆者はそんなお話を伺ったからこそ、ニシノデイジーの種牡馬入りについて質問したのだが、その答えが冒頭の「まだ早いよ(笑)」だ。競馬の酸いも甘いも噛み分けてきた大オーナーの言葉である。まったく、その通りだった。
そんな縁もあって、その後もニシノデイジーを見守っていたが、1番人気に支持された弥生賞で4着に敗れると、そこからは苦難の道が待っていた。2020年の目黒記念(G2)で最下位に敗れると、そこから約2年間ずっと二桁着順が続いた。特別に肩入れしていた筆者でさえ「もうG1を勝つのは厳しい」と思わざるを得なかった。
ワグネリアン(日本ダービー)、ニシノデイジー、コントレイル(無敗三冠)、ダノンザキッド(ホープフルS)、そしてイクイノックス(天皇賞・秋)……。熱心な競馬ファンは、これだけでピンと来たかもしれない。
そう、今や一番の出世レースと言っても過言ではない東京スポーツ杯2歳Sの過去5年の勝ち馬だ。
“青雲の霹靂”で「第5のG1馬」に
だが、「勝てば未来のG1馬」というスター街道に乗った近年の若駒たちで、ニシノデイジーだけが唯一の“落ちこぼれ”だった。それがまさか障害馬として中山大障害(G1)を勝ち、東京スポーツ杯2歳S勝ち馬の5年連続のG1馬輩出を実現させるなど、一体誰が予想できただろうか。
だが、その一方で筆者はゴッドスピードを思い出さないわけにはいかなかった。
今では競馬界を代表する出世レースとなった東京スポーツ杯2歳Sだが、重賞昇格を果たした第1回を制したのが、このゴッドスピードである。父がポリッシュネイビーという零細血統、そして小倉2歳S(G3・当時3歳S)、東京スポーツ杯2歳S(当時府中3歳S)の重賞2勝を引っ提げて、1997年のクラシックに挑むもその後は大苦戦……。そんな経緯や背景は、ニシノデイジーとよく似ている。
ニシノデイジーと同じように早熟のレッテルを貼られ、「引退」の2文字さえチラつく中での障害入り。まさに競走馬としての最後の勝負だ。
しかし、ゴッドスピードはジャンパーとして覚醒すると、1999年の中山大障害を制覇。このレースがジャンプG1となって、最初の勝ち馬が本馬である。
あれから23年の時が流れ、ニシノデイジーによって再び東京スポーツ杯2歳Sと中山大障害がつながった。また、平地重賞を勝って、中山大障害を制したのは本馬とゴッドスピードだけ。「明日の中山大障害。まぁみておれ」とは、西山オーナーが前日にTwitterで綴った言葉だ。まさに青天の霹靂ならぬ、“青雲の霹靂”である。