栄幟という「謎の名牝」残した功績。武豊とドウデュースが挑む75年ぶり「伝説」マツミドリの母から史上最強マイラーに繋がる系譜
「75年ぶり」と言われてピンとくる人は、まずいないだろう。
いくら我が国が世界に誇る長寿国家であったとしても、「あの時は~」などと気軽に話せる人はそういないだけの年月である。三四半世紀は、あまりにも膨大だ。
しかし今週、競馬界で「75年ぶり」がトピックの1つになった。京都記念(G2)に出走するドウデュースが勝てば、75年ぶりのダービー馬による制覇だという。さすが100年以上の歴史を誇る日本競馬、調べれば様々なデータが浮上し、いつもファンを楽しませてくれる。
ちなみに75年前、つまりは1948年に京都記念を勝ったダービー馬はマツミドリという馬だ。今月一杯で引退する福永祐一騎手の奥様で、元フジテレビアナウンサーの松尾翠(まつおみどり)さんならともかく、マツミドリのことを知っている競馬ファンはそういないだろう。
マツミドリは第14回の日本ダービー馬(ドウデュースは第89回の勝ち馬)であり、第6回の京都記念の覇者である。後にも先にも京都記念を勝ったダービー馬は、現在のところマツミドリだけだ。
引退後には種牡馬入りしたマツミドリだが筆者の知る限り、残念ながら現在にその血が残ってはいないようだ。75年も前の馬なのだから仕方がないといえるかもしれないが「母の血」がまだ残っているのは、競馬がブラッドスポーツと称される所以ではなかろうか。
ちなみに父カブトヤマは、第2回のダービー馬である。
競馬には「ダービー馬はダービー馬から」という格言があるが、この親子が語源と言われている。最近ではディープインパクトが引退後に功績を称えられて弥生賞ディープインパクト記念が誕生したが、カブトヤマも後にカブトヤマ記念という重賞レースの名称になったほどの名馬だ。しかし、種牡馬としてマツミドリは大きな成功を残せなかった。
栄幟という「謎の名牝」残した功績
一方で、マツミドリの母は「栄幟(えいしょく)」という馬だ。ただし、これはあくまで血統書の上での名である。
栄幟はダービー馬のマツミドリを残しただけでなく、グリンライトという牝馬を残している。競走馬として大きな成功を収めたわけではないが、繫殖入りするとライトフレームという牝馬を出産。これが二冠馬キタノカチドキの母になるのだから競馬は面白い。
また、ライトフレームはキタノカチドキだけでなく、ニホンピロエバートという牝馬も残している。今なお史上最強マイラー論争でも名が挙がるニホンピロウイナーの母である。
残念ながら、代表産駒のヤマニンゼファーから後継種牡馬が誕生しなかったことで栄幟の血は厳しい状況になっているが、もう1頭の代表産駒フラワーパークの仔ヴァンセンヌが安田記念(G1)2着と活躍して種牡馬入り。昨年のアイビスサマーダッシュ(G3)を14番人気で3着に好走し、26万馬券を演出したロードベイリーフが代表産駒である。
「2023年をいい年にするために、初戦からダービー馬に相応しい結果を出さなければいけないと思っています」
公式ホームページでそう力強く誓ったのは、ドウデュースの主戦・武豊騎手である。果たして、これから75年後の2098年、第89回日本ダービーの勝ち馬の血は残っているだろうか。想像もつかない三四半世紀後に思いを馳せながら、まずは2023年始動戦を見守りたい。