川田将雅「不在」のレースで垣間見えた凄み。世界のJ.モレイラが1番人気2着で“任務完了”も「川田なら勝てた」の声
「G1にはまだ手が届いていないんですけど、なんとかG1を勝ってファンの皆さんと喜びを分かち合いたいなと思います」
今週末に開催される大阪杯(G1)の共同会見で池江泰寿調教師は、そう強い決意をにじませた。
期待をかけるヴェルトライゼンデは今年で6歳になるベテランだが、2歳の暮れにはホープフルS(G1)でコントレイルの2着になるなど、早くから将来を嘱望されていた大器だ。
だが、不幸なことに同世代に史上3頭目の無敗牡馬三冠馬に輝く傑物がおり、自身も古馬になってから屈腱炎で長期離脱を余儀なくされるなど、そのキャリアは決して順風満帆とは言えない。
しかし、だからこそヴェルトライゼンデの陣営の思いは募りに募っている。年明けの日経新春杯(G2)ではトップハンデの59キロを跳ね返しての勝利。昨年、現役トップクラスの力を改めて示したジャパンC(G1)で先着されたヴェラアズールとシャフリヤールは共にドバイ遠征の関係で不在だ。
陣営にとってまさに悲願達成の絶好機であり、その意気込みがありありと現れているのが、デビュー戦以来の川田将雅騎手を配してきた点だろう。
昨年、自身初のリーディングだけでなく、史上4人目の騎手大賞も獲得した川田騎手。今年もここまでリーディングを突っ走っており、勝率0.345、連対率0.597、3着以内率0.723(いずれも30日現在)はジョッキー界の頂点に立った昨年を大きく上回る驚異的な成績だ。
そんな川田騎手は、今や世界でも指折りの名手として数えられる存在だ。
記憶に新しいのは、やはり先週のドバイワールドC(G1)のパフォーマンスだろう。川田騎手が騎乗したウシュバテソーロは、日本馬に人気が集まりやすいJRAの馬券発売でも4番人気と決して抜けた馬ではなかった。
さらにはスタートで後手を踏む苦しい展開。世界の強豪相手に後方一気を強いられる苦しい状況だったが、ここで慌てないのが今の川田騎手の凄みだ。じっくりと構えると、勝負どころの最終コーナーで徐々に前へ進出。最後の直線で相棒の末脚を爆発させると、日本競馬にとって2度目のドバイワールドC制覇をもたらした。
だが、記者がドバイワールドC制覇以上に「川田騎手の凄み」を感じたのはドバイターフ(G1)後だったという。
「ドバイワールドCの騎乗も凄かったですが、印象的だったのはドバイターフ(G1)後のファンの反応でしたね。お手馬のダノンベルーガがJ.モレイラ騎手に乗り替わりになった影響もあって、川田騎手自身が参戦したレースではないのですが、結果的にダノンベルーガは2着に敗れてしまいました。
敗れはしましたが、結果だけを見れば1番人気で2着と決して悪くないですし、陣営としても当面の課題だった賞金加算に成功した点は大きな収穫だったと思います。モレイラ騎手も最低限の仕事はできたのではないでしょうか。
ただ、レース後にモレイラ騎手が『理想より1列後ろのポジションになってしまった。直線で外に出すまで少し時間がかかった』と悔やんでいたこともあって、SNSなどでは『(主戦の)川田騎手が騎乗していれば』『川田騎手なら勝てた』といった、今回の乗り替わりに対して批判的な声もありました。
モレイラ騎手といえば、日本でも強烈なインパクトを残している香港のトップジョッキー。このドバイ(ワールドカップデー)でもドバイゴールデンシャヒーン(G1)やドバイターフを勝ったことがある世界的な名手です。
2着だったとはいえ、そんなモレイラ騎手が騎乗していたにもかかわらず、川田騎手を推す声が多かったのは、競馬ファンの川田騎手への信頼度の高さがうかがえた一幕だと思います」(競馬記者)
「今週も素晴らしい馬の騎乗を頂きましたので、しっかりと準備をして、良いレースをお見せできるようにヴェルトライゼンデと共に頑張りたいなと思います」
池江調教師の後に共同会見に応じた川田騎手の表情からは、G1前とは思えない余裕すら感じられた。世界を制した勢いと経験をそのままに、今週末ヴェルトライゼンデ陣営の悲願G1獲りを叶えるのは、やはりこの勝利請負人に違いない。