イクイノックス「薄氷勝利」に絶好アシスト? 鞍上未定にC.ルメール特別待遇の噂も…池添謙一が逃がした「悔し過ぎる」特大金星
上半期を締めくくった宝塚記念(G1)を制したのは、やはりC.ルメール騎手とイクイノックス(牡4、美浦・木村哲也厩舎)だ。現役世界最強馬の呼び声高い本馬は、単勝1.3倍の断然人気に応える勝利。これで向かうところ敵なしのG1・4連勝となった。
とはいえ、2着に善戦したスルーセブンシーズ(牝5、美浦・尾関知人厩舎)と、わずかクビ差の辛勝。前走の中山牝馬S(G3)で重賞初制覇を遂げたばかりの牝馬相手に接戦したのでは、現役最強馬として少々物足りなさを感じる内容ともいえる。
「内の馬場は良くなく、安全に乗りたかったです。良いスタートでしたが、良いポジションが取れませんでした。宝塚記念は難しいレースで、一番強い馬でも勝つのは難しいです」
大役を終えたルメール騎手がそう振り返ったように、レースを先導したユニコーンライオン、ドゥラエレーデが演出したハイペースは先行勢が軒並み崩れる過酷な展開を作り出した。上位に入線した馬たちと同じく、後方待機策から満を持して追い出したジェラルディーナですら、ゴール前で脚が止まった。
本馬に騎乗した武豊騎手はラップ感覚に秀でる名手として知られているが、この乱ペースは、そんなレジェンドにも微妙な誤差を生んだのだろう。
それだけ難解なレースだったことを思えば、ルメール騎手から「今日は世界一の馬が勝つことができて、よかったです。安心しました」と、安堵のコメントが出されたのも頷ける“薄氷の勝利”だったと伝わってくる。
これに対し、あと一歩のところで特大金星を挙げ損ねたのが、スルーセブンシーズとのコンビで絶対王者に冷や汗をかかせた池添謙一騎手だ。
パートナーの激走を労いつつも、自身のTwitterにて「どこがグランプリ男やねん」「ここで世界一に勝ってこそのグランプリ男でしょ」「悔しい」と複雑な心情を吐露。乗り方次第では勝利の可能性もあっただけに、最も悔しい思いをした人物だろう。
「池添騎手にとって痛恨だったのは、最後の直線でスムーズな進路取りができなかったことに尽きるでしょう。先んじて動いたイクイノックスをマークするように、追撃したスルーセブンシーズでしたが、最後の直線を迎えた肝心の勝負どころで前が塞がり、態勢を取り直すロスがありました。
それでワンテンポ後れを取るロスがあった間に、大外の勝ち馬はスイスイと末脚を伸ばしていました。結果的に例の鞍上未定がここで少なからず影響しましたね。この誤算がなければ、もしかしたら差し切れていたかもしれません」(競馬記者)
記者が指摘したのは直線の攻防についてのこと。最後の直線で大外に持ち出されたイクイノックス、そしてその隣にジャスティンパレス、さらにもう1頭分空いた内側にジオグリフという並びだった。
そしてジオグリフとジャスティンパレスの間を突こうとしたのが、すぐ後ろにいたスルーセブンシーズだったものの、一瞬開きかけた「Vルート」はジオグリフが外に動いたことで閉鎖。そこから再度態勢を立て直して内に進路を探さなくてはならなかった。
あのまま1頭分の隙間を駆け抜けることに成功していたら、クビ差の明暗はひっくり返っていた可能性もあったのではないか。
直前まで鞍上未定のままだったジオグリフに対し、木村調教師がイクイノックスにアクシデントなどが発生した際の保険として、ルメール騎手のために配慮していたのではないかという噂もまことしやかに出ていたジオグリフ。何も知らなければ、ルメール騎手への特別待遇にも映る指揮官の采配だった。
最終的に岩田望来騎手を迎えての参戦となったが、もし他の騎手の手綱だったなら、道中の位置取りも違っていたはず。そういう意味では結果的に僚馬がイクイノックスにとって“絶好のアシスト”をしてくれたともいえる。
勿論、大外を回した距離のロスや、負けられない立場のルメール騎手が安全策を採ったこともあるのだが、そこは乗り難しい阪神芝2200mの内回り。“タラレバ”は競馬によくある話とはいえ、一歩間違えれば大本命の勝利にハッピーエンドとならなかった可能性もあった今年の宝塚記念ではなかったか。
ともかくイクイノックスが“負けなかった”事実は事実。最大のライバルとなるドウデュースや3歳最強といわれるリバティアイランドとの激突に注目が集まる秋の決戦は、ますます楽しみになった。