JRA「初代」夏の上がり馬は1969年の菊花賞馬? メジロマックイーン、マヤノトップガン、ヒシミラクル…受け継がれる夏競馬の醍醐味【競馬クロニクル 第17回】

「夏の上がり馬」というフレーズは、それなりの観戦キャリアがあるファンなら耳にしたことがあるはずだ。

 体質の弱さや晩成の血統、怪我やアクシデントなどの理由から春のクラシック戦線に乗り切れなかったが、夏のあいだに古馬と対戦しながら力をつけて、菊花賞(G1)や秋華賞(G1)を狙える位置まで伸びてきた3歳馬。簡略に説明すると、こうなるだろうか。

 この「夏の上がり馬」というフレーズが使われ始めたのは1969年の菊花賞馬、アカネテンリュウからだと言われている。

 2歳の12月にデビューしたアカテネンリュウが初勝利を挙げたのは翌年の3月末。キャリアにして7戦目だった。

 その後も4着、12着と敗戦を重ねたが、5月の90万下(現・1勝クラス)で2勝目を挙げると、夏の函館へ転戦し、160万下(現・2勝クラス)、駒場特別(250万下、現・3勝クラス)と3連勝。続くオープンで4着に敗れたところで東京へ帰厩した。

 一段落したアカネテンリュウは重賞初挑戦となる10月のセントライト記念に出走。7番人気という低評価を覆し、2着のミノル(日本ダービー2着)に2馬身半差を付けて圧勝した。これをもって「夏の上がり馬」と呼ばれるようになり、同時に菊花賞の有力候補と位置付けられた。

 10月に西下したアカネテンリュウは、ステップとして京都杯に出走し、勝利こそ逃したものの、その年の日本ダービー1、2着馬のダイシンボルガード、ミノルを抑えて2着に入って、遠征初戦で上々の結果を残した。

 そして単勝1番人気で迎えた菊花賞。直線に入って早々と先頭に躍り出て、外へ内へと蛇行しながらではあったが、翌春の天皇賞を勝つことになるリキエイカンに4馬身もの差を付けて快勝。次走の有馬記念でも天皇賞馬スピードシンボリと激闘を繰り広げ、ハナ差屈したが2着に健闘した。

 こうした「夏の上がり馬」を挙げると、けっこうな数の馬たちが該当する。

 3歳の9月に条件戦を連勝し、準オープン(現・3勝クラス)の嵐山Sを2着に取りこぼしながらも臨んだ菊花賞を制したメジロマックイーン(1990年)。

 7月の条件特別(900万下/現・2勝クラス)を勝ち、トライアルの神戸新聞杯、京都新聞杯を連続2着。その勢いを活かして菊花賞を圧勝したマヤノトップガン(1995年)。

 6月から条件戦を3連勝し、神戸新聞杯の3着をステップに出走した菊花賞を快勝したオウケンブルースリ(2008年)。

 7月の中京で未勝利戦を勝ち、8月の小倉で500万下を勝ち上がったトーホウジャッカルは、神戸新聞杯の3着を経て臨んだ菊花賞でサウンズオブアースを抑えて優勝(2014年)。

 ほかに、マチカネフクキタル(1997年)、ヒシミラクル(2002年)、スリーロールス(2009年)、ビッグウィーク(2010年)なども、広義の「夏の上がり馬」にあたるかもしれない。

 夏になっても重賞は毎週欠かさず行われているが、秋シーズンに直結する重要レースである札幌記念(G2)を除けば、メンバーの魅力が少々ランク落ちするのは確か。そうした夏競馬のシーズンの楽しみとして、年を経るごとに良血馬・評判馬のデビューが早まっている2歳馬たちを値踏みするのはもちろんだが、もうひとつは菊花賞に向けての「上がり馬」、なかでも中長距離の条件戦を吟味することも大事にしている。

 というと大層なことのように聞こえるが、単純に言うと「菊花賞で馬券に絡みそうな馬」を探せるから。そう、勝たなくとも「絡む」馬を見つける、というのがキモだ。

 筆者が、そのポイントを痛感したのが2014年の夏の経験である。

 デビュー以来、ずっと2000m以上のレースを使われていたゴールドアクターは、出走権こそ逃したものの、ダービートライアルの青葉賞(G2)で僅差(0秒1)の4着に入った経験を持つ“高ポテンシャル馬”である。

 その後、短い休養を経て臨んだのは北海道シリーズだった。小回りの札幌と函館には芝2600mという独特のコース設定がある。その年の札幌で、この距離で行われた条件戦を2つ続けて、単勝オッズ1倍台という圧倒的な人気を背負いながら圧勝したのである。

 ふるっていたのはこのあとの陣営の決断で、ステップレースは使わず、菊花賞へ直行させたことだ。

 この“直行”というローテーションが、条件戦とはいえ札幌の長距離レースでゴールドアクターが見せた強い競馬の記憶を朧にしたのだろう。菊花賞での彼の評価は、オッズ35.0倍の7番人気という低いものだった。

 結果はトーホウジャッカル(3番人気)、サウンズオブアース(4番人気)には遅れたが、最後までしぶとい差し脚を見せて3着に食い込み、3連単で5万9220円という好配当を演出した。

 翌年の春季は休養にあてて、7月の函館で復帰。芝2000mの洞爺湖特別(1000万下、現・2勝クラス)をラクに制すると、ここから連勝街道を驀進する。準オープンの特別戦を勝って、続くアルゼンチン共和国杯(G2)で重賞初制覇を達成したのだ。

 ゴールドシップやラブリーデイなど多くのG1ホースが顔を揃えた有馬記念に臨むと、逃げたキタサンブラックを交わし、サウンズオブアースの差しを封じて、単勝8番人気という評価を覆して優勝を果たす。3連単の払戻金は菊花賞よりさらに跳ね上がり、12万5870円という高額になった。

 前に名前を挙げた主流派とはひと味違うが、これも変種の「夏の上がり馬」ではないか、と筆者は考えている。

 これから夏競馬も後半。秋に備えての(実利がともなう)“予習”もかねて、中長距離の条件戦に出てくる3歳馬に注目してみると、楽しみはさらに増すだろう。

三好達彦

1962年生まれ。ライター&編集者。旅行誌、婦人誌の編集部を経たのち、競馬好きが高じてJRA発行の競馬総合月刊誌『優駿』の編集スタッフに加わり、約20年間携わった。偏愛した馬はオグリキャップ、ホクトヘリオス、テイエムオペラオー。サッカー観戦も趣味で、FC東京のファンでもある。

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