矢作芳人調教師「藤田晋オーナーと協議します」超新星の動向が新ダート三冠路線のカギ? 2024年「ダート革命」がいきなり迎えた分水嶺
有馬記念にホープフルS、そして東京大賞典といった年末G1の熱も冷めやらぬまま、間もなく2024年の競馬が幕を開ける。今年の目玉は、何と言ってもダート三冠路線を軸とした「ダート革命」だろう。
「芝か、ダートか――。」
昨年、中央競馬と地方競馬が手を取り合い「新しい日本のダート競馬が、ここから」と銘打たれて始動した全日本的なダート競走の体系整備。最大の目玉は、これまで地方所属馬限定で行われてきた羽田盃、東京ダービーが交流重賞として開放されることで、中央所属のダート馬にも三冠に挑むことができるようになった「新ダート三冠路線」だ。
この歴史的な動きの背景には、中央競馬と地方競馬が長年望んできたダート馬の地位向上の推進がある。日本競馬の主流は芝であり、かつてダート競走は芝で勝てない馬たちが走る“落ちこぼれ”の救済的な役割があった。
例えば、JRA史上最初のダートG1となったフェブラリーSは、1984年にハンデキャップ重賞のG3として誕生している。その後、ダート馬の地位向上に伴って1994年にG2に昇格し、1997年にようやくG1に昇格。2007年から国際競走となり、外国馬の出走が認められるようになった経緯がある。
全日本的なダート競走の体系整備、いわゆる2024年の「ダート革命」は、そういった中央競馬と地方競馬の取り組みの中でも極めて重要な決定であり、これが成功すればダート馬たちは芝馬たちに勝るとも劣らない地位・人気を確立できるというわけだ。
「ダート革命」のカギを握る大物3歳馬
そんな中、その動向が「ダート革命」のカギを握っている馬がいる。昨年の全日本2歳優駿(G1)を7馬身差で圧勝したフォーエバーヤング(牡3歳、栗東・矢作芳人厩舎)だ。
10月のデビュー戦を4馬身差で完勝したフォーエバーヤングは、その勢いのままJBC2歳優駿(G3)、全日本2歳優駿と3連勝。後ろから捲って良し、前から逃げて良しという2歳離れした自在振りは、同世代のライバルたちを寄せ付けない。今年から始まる「新ダート三冠路線」の主役と言える存在だろう。
ダート革命元年を迎える中央競馬と地方競馬にとっても、このスター候補の登場は、まさに渡りに船といったところか。例えば2005年の牡馬三冠馬ディープインパクト、昨年の牝馬三冠馬リバティアイランドなど、1頭のスターホースの出現は牡馬三冠、牝馬三冠といったコンテンツ全体の関心を大きく向上させるからだ。
その点、フォーエバーヤングの馬主は国民的大ヒットアプリ『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)で知られる藤田晋オーナー。早くもファンから“ウマ娘入り”を期待する声が上がるなど、「ダート革命元年」の旗印となる資質は十分だ。
しかし、その一方でフォーエバーヤングは、日本一の海外実績を誇る矢作厩舎の管理馬でもある。
若き王者フォーエバーヤングが進むのは国内か、海外か…
矢作厩舎といえば積極的な海外遠征が有名で、日本で最初に米国競馬の最高峰ブリーダーズCを制した厩舎。昨年もパンサラッサが日本史上初のサウジC(G1)勝利を成し遂げ、1着賞金約13億円を手にするなど、その世界的活躍は枚挙に暇がないほどだ。
実際にフォーエバーヤングが全日本2歳優駿を勝利した後、矢作調教師は今後について「海外と、国内ダート三冠を含めてオーナーと協議します」と発言。ちなみに前年の当レースの覇者デルマソトガケは、その後サウジダービー(G3)、UAEダービー(G2)、ケンタッキーダービー(G1)、ブリーダーズCクラシック(G1)と昨年は日本で一度も走らなかった。
フォーエバーヤングもまだ明確な方針は発表されていないものの、その矛先を海の向こうに決める可能性は十分にありそうだ。
では、ここで仮に今年のフォーエバーヤングが、昨年のデルマソトガケとまったく同じローテーションを歩んだ場合を考察してみたい。下記は2024年おける各競走の開催日だ。
4月24日 羽田盃
6月5日 東京ダービー
10月2日 ジャパンダートクラシック
2月24日 サウジダービー
3月30日 UAEダービー
5月4日 ケンタッキーダービー
11月2日 ブリーダーズCクラシック
以上のように開催日のモロ被りこそないが、海外遠征のダメージや検疫などを考慮すると「両立」は非現実的と言わざるを得ない。国内か、海外か、矢作調教師の言葉通りフォーエバーヤング陣営はどちらかを選択することになりそうだ。
果たして、いよいよ始動する新ダート三冠路線は“主役”不在の状況を迎えてしまうのか、それとも……。フォーエバーヤングの動向は「ダート革命」の注目度にも大きな影響を与えそうだ。