オウケンムーンが6馬身差レコードでクラシックに名乗り! オウケンブルースリ×エリシオという時代に逆行した”雑草”は「競馬の常識」を覆せるか
何よりも強調したのが、本馬が2008年の菊花賞馬オウケンブルースリの産駒であるということだ。
2012年の有馬記念を最後に引退したオウケンブルースリは、イーストスタッドで種牡馬入り。ただ通算27戦5勝、G1勝ちは先述した菊花賞のみと、当然ながら厳しい種牡馬生活のスタートとなった。
初年度産駒はわずか13頭。その内JRAに登録された産駒は9頭に過ぎず、デビューを迎えた昨年は結局未勝利に終わってしまった。
多くのステイヤー種牡馬の失敗例がそうであるように、いきなり絶望的な状況に立たされたオウケンブルースリ。だが2年目の夏を迎えたところで、ようやく”風向き”が変わり始める。8月の未勝利戦でプリモガナドールが、ついにオウケンブルースリ産駒としてJRA初勝利を上げたのだ。
ただ、ゴールドアリュールを母の父に持つプリモガナドールが勝った舞台はダートの1000m。状況的に贅沢は言えないが、菊花賞馬の父とは、かけ離れたタイプの馬だった。
だからこそJRA通算2勝目となったオウケンムーンの今回の勝利は、オウケンブルースリの現役時代を知るファンにとって、まさに待望の……いや、”望外”の勝利だった。
あのお世辞にも上手とはいえない、もっさりとしたスタート。そして、どこまでも伸びていきそうな最後の直線での力強い走りは、距離が伸びて持ち味が出るステイヤーの父を彷彿とさせるもの。
そして、何よりも感慨深いのは、本馬が父のオーナーでもある福井明氏の所有馬であることだ。
「オウケン」の冠名で知られる福井オーナーにとって、オウケンブルースリは初の重賞制覇、そしてG1制覇を届けてくれた掛け替えのない存在。その思い入れは、初年度産駒9頭の内、3頭を所有していることや、自身にとって唯一の重賞を勝った牝馬オウケンサクラに、実績のないオウケンブルースリを配合した産駒を所有していることからも、ひしひしと伝わってくる。
オウケンムーンは、そんなオーナーが持つ数少ない所有馬の中から出現した、いわば「王道の後継者」といえる存在だろう。母の父が凱旋門賞馬でありながら種牡馬として成功したとは言い難いエリシオであることも、競馬特有の”ロマン”を感じる。