宝塚記念が有馬記念になれない理由。有力馬の回避、馬券売上の伸び悩み、盛り上がらないファン投票、そして大人の事情とは
同じグランプリでもなぜここまで違うのか?この背景には大きく分けて2つの要素があるように思える。まずは開催時期だろう。
一年を締めくくる暮れの有馬記念と違い、上半期のビッグレースはやはり日本ダービー。競馬ファンもマスコミもその日本ダービーが一番の注目レースであり、日本ダービーが終われば「一休み」といった風潮になってしまう。事実マスコミの露出も競馬ファンの盛り上がりもピークを越えてしまい、安田記念が終わるとG1レースが2週間行われず、その「一休み」に拍車をかけてしまうのだ。
さらに日本ダービーで激戦を演じた3歳トップクラスの出走は極めて稀であり、多くの馬が秋の菊花賞や秋華賞を目指して休養してしまう。また凱旋門賞などの海外遠征を控えた陣営も、日程を考慮して宝塚記念の出走を見送る傾向にある。
そして梅雨の時期に行われる宝塚記念は、どうしても馬場が悪化した状態であり、過去10年で有馬記念がすべて良馬場だったのに対し、宝塚記念は稍重馬場が3回、重馬場は1回となっている。こういった馬場による競走馬への負担を考慮して出走を見送る陣営も少なくない。やはりこの時期のグランプリは厳しいと言わざるを得ないだろう。
そしてレースの格付けも見逃せない。馬券の売り上げに比例するのか宝塚記念の1着賞金は1億5000万円だが、有馬記念は倍の3億円だ。この格差がある時点で、JRAは宝塚記念が有馬記念と比較して半分程度の位置付けでしかないと認めているようなものである。また1995年以降、G1レースの優勝実績が宝塚記念のみという牡馬はナカヤマフェスタ、アーネストリー、エイシンデピュティ、ダンツフレーム、メイショウドトウ、マーベラスサンデーらがいるが、引退後に種牡馬として大成した馬はなく、種牡馬になれなかったダンツフレームのような馬もいたほど。つまり生産者や馬主は、宝塚記念の優勝馬に種牡馬としての価値を感じていないのである。
以上の理由から、宝塚記念を最大の目標にするような陣営は少ないと思われる。その結果一流のトップホースが回避して出走頭数が減少。宝塚記念が有馬記念以上に盛り上がることは難しく、残念ながら今年もイマイチなメンバー構成となってしまった。ではどうすれば宝塚記念を有馬記念のように盛り上げることができるのだろうか。ある関係者はこう語る。
「有馬記念と同じ3億円とまでは言いませんが、2億5000万円くらいの優勝賞金にすれば、出走馬の質と量は改善すると思います。あとは安田記念の翌週に時期をずらべきかと。現状、安田記念から宝塚記念を目指す馬はほとんどいませんから、反対意見はほとんどないでしょう。今や3歳有力馬の出走も見込めませんから。あとは条件が近い大阪杯を外回りの1800mにするなどで差別化も図れると思います」
確かに4月の大阪杯(阪神芝2000m・内回り)がG1レースに格上げされたことで、宝塚記念(阪神芝2200m・内回り)の存在意義は希薄になってしまった。そこで大阪杯を阪神芝1800mの外回りコースに変更することで、レースの差別化を図り、それぞれの適性に応じた関係者の出走意欲を高めることもできるというのだ。来年で60回目を迎える宝塚記念、思い切った決断で春を代表するビッグレースにしてもらいたい。