「進化」を見せつけた武豊騎手の春……スランプを超え、「今こそ全盛期」といえる熟練の手綱さばきと華やかさ
29日に行われた帝王賞(G1)は、コパノリッキーが道中3番手からの押し切りで完勝を果たした。同馬はこれでG1競走7勝という快挙を達成。歴代ダートホースの中でも指折りの存在になったといえるだろう。
そのコパノリッキーに騎乗していたのが武豊騎手だが、今年上半期は国内外で大活躍。最後のビッグレースも「千両役者」よろしくキッチリ勝利した。長くコンビを組むコパノリッキーだが、帝王賞での圧巻のレース運びはその関係性が「完成」されたように見えた。
天皇賞・春、かしわ記念、イスパーン賞、帝王賞……武騎手は中央地方海外でこの春G1を制覇した。他にもラニでの米国3冠挑戦や各G1競走での好走もあり、非常に印象深いものとなっている。
武騎手は今年39勝で現在リーディング10位。全盛期の勝利数と比較すれば見劣る部分はあるかもしれない。しかし、当時と存在感は何一つ変わらない。それどころか、エイシンヒカリやキタサンブラック、コパノリッキーで見せる「逃げ」の巧みさからは、ますますその腕前が冴え渡っているようにすら感じられる。
「2010年から数年間、デビュー以来最大のスランプに陥った武騎手ですが、その時でさえ決して人のせいにすることなく『自分が悪い』と言い続けていました。ファンの多くが復活を望んでいましたが、単に勝ち鞍が戻るということではなく、さらに『進化』して帰ってきたという点には感服するばかりです。以前と比べれば騎乗馬も最高クラスではない中でこれだけビッグレースを勝利する騎手は他にいません。今年は皐月賞と宝塚記念を制した蛯名正義騎手の勝負強さも光りますが、武騎手もまた熟練の腕を見せつけていますね」(記者)
下半期に入っても、武騎手の忙しさは収まらない様子。秋にはアメリカ最高峰・ブリーダーズカップ諸競走にコパノリッキー、ヌーヴォレコルトで挑む予定である。国内でもキタサンブラックにエイシンヒカリ、3歳ではエアスピネルと有力馬をしっかりと確保しているのだからさすがだ。
帝王賞もそうだが、武騎手が勝利するとなんともいえない華やかなムードが競馬場を包む。これは日本競馬の象徴だからこそのオーラだろうが、不断の努力を重ね貪欲に勝利を求める勝負師の生き様が、その姿に見えるということかもしれない。
(文=利坊)