何故「JRAモレイラ」は誕生しなかったのか……号泣した香港No.1騎手の「今後」と識者が語った騎手試験の「真相」とは
「もともとポジティブな性格ということもあって、モレイラ騎手も相当なショックだったようですね。試験に向けてどれだけ具体的な努力が出来たのかは定かではありませんが、家族を日本に呼ぶなど、少なくとも日本に骨を埋める覚悟で移籍を考えていたと思います。
本人も以前から日本の競馬環境を絶賛していましたし、明るい性格で周囲の関係者とのコミュニケーションも上手くいっていたようです。だからこそ、周りの人間も合格する可能性はかなり高いと考えていたんですが……。
ただ、その一方でモレイラ騎手は『あまりにも存在感が大き過ぎる』という意見もありました。
言い換えれば上手過ぎた、勝ち過ぎていたということ。それはつまり、モレイラ騎手が通年免許を取ることで、騎手たちのパワーバランスに、さらなる大きな変化が起こるということです。一部からは『年間200勝どころか300勝できる』と予告する声もありました。
そうなるとその”煽り”を受けるのは当然、日本で活躍する現役の騎手たち。特に日本人騎手たちは、すでにルメール騎手やデムーロ騎手といった”大波”を受け入れたばかりであり、現場からは『これ以上苦しくなったら、騎手を続けられない』という悲痛な叫びもありました。
実際に、日本経済新聞の競馬記者である野元賢一氏など、日本の競馬に深く精通した識者らは、騎手試験は単純な点数による判定基準だけでなく、様々な要素が複雑に絡み合っている可能性があることを指摘しています。免許試験要領にも『100点満点で【概ね】60点以上であること』と記載されていますし、今回もそういった『政治色』があったのかもしれません。
そういった意味では、JRAが『慎重な決断を下した』ということにもなりますね」(競馬記者)
識者が指摘する「政治色」を簡潔に述べると、JRAの騎手免許試験の合否には試験の出来だけでなく、競馬ファンや、既存のJRA騎手を始めとした「競馬関係者らの意見」も大きな影響を与えている可能性があるといったものだ。
過去には地方移籍騎手のパイオニア的な存在となった安藤勝己氏がJRAの騎手免許試験を受けた際、一度は不合格となったが「誰が見てもわかる腕利きが、試験に落ちるのはおかしい」とメディアやファンから猛反発があり、JRAは翌年からの試験のルールを大幅に緩和した経緯がある。俗にいう”アンカツルール”だ。
今では日本で大活躍しているM.デムーロ騎手も最初の試験では不合格だったが、この際も試験制度そのものを疑問視する声が噴出。関係性は定かではないものの翌年、デムーロ騎手はC.ルメール騎手と2人で見事合格となっている。