JRA安藤勝己「瞬発力ではかなわない」ダイワスカーレットVSウオッカ、宿命の「ライバル対決」を制した名手の秘策が光った2007年桜花賞(G1)
「明日も緋色の風が吹く」
ダイワスカーレットのヒーロー列伝のタイトルだ。
今から13年前、名牝ダイワスカーレットが優勝した2007年の桜花賞(G1)に思いを馳せたい。
同馬の父は幻の三冠馬アグネスタキオン、母はスカーレットブーケ、兄にG1レースを5勝したダイワメジャーがいる良血馬である。
この年の桜花賞戦線は、前年の阪神JF(G1)を制し、前哨戦のチューリップ賞(G3・当時)で初顔合わせとなったダイワスカーレットを破ったウオッカが、単勝140円の圧倒的な支持を受けていた。
これに続き、阪神JFでウオッカのクビ差2着に敗れていた武豊騎手のアストンマーチャンが、フィリーズレビューを完勝したこともあり、単勝520円の2番人気。ダイワスカーレットは単勝590円の3番人気の評価に過ぎなかった。
阪神JFから3連勝で桜花賞に歩を進めたウオッカに対し、シンザン記念(G3)でアドマイヤオーラの2着に敗れ、チューリップ賞でも直接対決に敗れたことからも仕方がなかったかもしれない。
だが、ウオッカの1強という下馬評とは異なり、ダイワスカーレットの主戦・安藤勝己騎手は、ライバル逆転に確かな手応えを感じていた。
チューリップ賞のダイワスカーレットは前半3Fを35秒7のスローで逃げた。絶好の手応えで直線に入り、追い出しを待つ余裕を見せたものの、3F33秒5という驚異的な切れ味を見せたウオッカが、クビ差捉えて差し切った。勝ち馬には交わされたとはいえ、ダイワスカーレット自身も3F33秒9という上がりで走っていた。
ダイワスカーレットはその前のシンザン記念でもスローペースからの上がり勝負でアドマイヤオーラの切れに屈していた。この連敗から兄ダイワメジャーの手綱も取った名手は、桜花賞を勝つために用意した秘策を披露する。
レースでは、アマノチェリーランが逃げ、アストンマーチャンは距離の不安からか折り合いに専念して2番手に控えた。ダイワスカーレットは3番手からの競馬となった。
前半3F35秒7で流れ、またしてものスローの展開となったが、このときのダイワスカーレットは違った。ウオッカを待たずに早めのスパートを決めると、必死に追いすがるライバルに1馬身1/2の差をつけ、見事1着でゴールを駆け抜けた。
桜花賞の勝利で、ダイワスカーレットはウオッカとの対戦成績を1勝1敗のタイに戻し、1強ではなく2強だったことを証明してみせたのである。
鞍上・安藤勝己騎手が「瞬発力ではかなわない。早めのケイバで相手に脚を使わせたかった」と述懐したように、外から迫るウオッカとの距離、脚色を測りながらのスパートでリベンジを果たした。
前走の敗戦を逆手に取った、技ありの名騎乗だったといえる。
そして、ライバル2頭の対決はその後も続き、伝説となった2008年の天皇賞・秋(G1)では、史上に残るデッドヒートを繰り広げることとなる。
今年の桜花賞にはダイワスカーレットの兄ダイワメジャー産駒であるレシステンシアが出走する。快速を活かし、ダイワスカーレットのような勝利を決めることができるか。
騎乗するのはライバル・ウオッカの手綱を取っていた武豊騎手ということもまた、非常に興味深いレースとなりそうだ。