池添謙一は大舞台でなぜ勝てるのか? 昨年の有馬記念(G1)伏兵ヤマカツエース大健闘の”裏”に見えた「勝負師」としての執念
昨年の有馬記念が控えた月曜日、『デイリースポーツ』の取材を受けたヤマカツエース(牡5歳、栗東・池添兼雄厩舎)の主戦・池添謙一騎手は「中山はいいと思う。メンバーは一枚も二枚も上なので、内枠を引いて距離損なく運べれば」と答えていた。
その結果、2枠4番という好枠に恵まれたヤマカツエース。ここまでは、まさに主戦騎手が望んだ通りの展開だったが、実際にレースのスタートが切られた直後「予期せぬ出来事」が起きた。
これまでの最長距離が2200mだったこともあり、4番ゲートから「距離損なく運ぶ」ため終始内々を回りたいヤマカツエース。そんな8番人気の伏兵にとって当面の”邪魔な存在”は当然3頭だ。
その上で1枠1番のキタサンブラックは逃げ馬、2枠2番のゴールドアクターもそれを追いかけることが濃厚と考えれば、あとは2枠3番のムスカテールをどうやり過ごすかが肝心な状況だった。
ただし、中山の2500mはスタートして間もなくコーナーが待っている。その時点で最内を確保していることが「ベスト」であり、あまりモタモタしている時間はない。そんな池添騎手にとって、序盤の最大の懸念材料だったムスカテールが大きく出遅れたのは、まさに僥倖(ぎょうこう)というべき展開だった。
池添騎手には余程インコースに対する強い意志があったのだろう。
有馬記念のパトロールビデオを見れば一目瞭然だが、次の瞬間もうヤマカツエースは最内に切り込んでいる。まだ1コーナーに飛び込む前にもかかわらず、一頭だけインベタを走っている姿は、どの隊列でレースを進めるのかという「縦の位置取り」よりも、どのコースを通るのかという「横の位置取り」を何よりも優先した”執念”に似たものを感じた。