JRA岩田康誠と川田将雅、両者の「スタイル」に明暗…… フェブラリーS(G1)距離不安のライバル2頭で運命を分けたそれぞれの決断
20日、東京競馬場で行われた今年最初のJRA G1・フェブラリーS。
人気の割れた混戦を制したのは昨年、4歳でこのレースを快勝したカフェファラオ(牡5歳、美浦・堀宣行厩舎)。1年前に栄冠を掴んで以降は、なかなか本来の実力が発揮できず。昨年の覇者ながら、最終的に2番人気に甘んじたが、終わってみれば後続に0.4秒差をつける圧巻の勝利。レコードタイ1分33秒8(重)という高速決着で、その強さを見せつけた。
大健闘を見せたのが、5番人気2着に粘ったテイエムサウスダン(牡5歳、栗東・飯田雄三厩舎)。前走で根岸S(G3)を勝利した勢いは、G1でも存在感十分だった。3着には昨年のJRA賞・最優秀3歳牝馬に輝いたソダシが入り、初ダートで惨敗したチャンピオンズC(G1)から、2戦目で変わり身を見せた。
なかでも驚かされたのが、テイエムサウスダンの手綱を取った岩田康誠騎手の積極的な姿勢だった。
昨年は地方の1400m重賞を主戦場とし、前々からの正攻法で良績を挙げてきた同馬。そのため、前に行くこと自体に驚きはなかったのだが、前走の根岸Sはこれまでと違う差す競馬で勝利。距離が1ハロン延びるフェブラリーSにあたり、いかにもトライアルといった乗り方にも映った。
そんな伏線もあっただけに、ファンの多くが前走と同じく、控えるプランを思い描いていたことだろう。
しかし本番当日、ゲートが開き、ロケットスタートを決めた岩田騎手は、一旦内の馬の出方を見ながら手綱を引くような仕草を見せたものの、大方の予想とは真逆の選択をしたである。
行きたがる素振りを見せたパートナーの勢いに任せるように一気にハナへ。サンライズホープを抜き去って先頭に立つと、馬も落ち着きを見せて、そこでレースのペースが一気に緩む。
この結果、重馬場の状況も相まって、レースは4角3番手以内の3頭でワンツースリーという前残りの決着となり、テイエムサウスダンはカフェファラオには差されるも、後続の追撃はしのいで2着を死守した。
岩田騎手がコメントをしないこともあり、真相は定かではないが、おそらく少し掛かりかけたところで、もう腹を括って行くという決断に至ったと思われる。そして、結果的にこの判断は大正解だった。
この日の東京ダートは、雨の影響を受けた高速馬場で、9レースに行われたフェブラリーSと同条件のヒヤシンスS(L)も、掲示板の5着までが道中で5番手以内を走っていたという前残り馬場だった。この馬場では、控える競馬だと、末脚不発に終わる可能性もある。ならば行ってしまった方が、有利という判断に繋がったのかもしれない。
また、雨が降って脚抜きのいい軽いダートになれば、パワータイプよりスピードタイプに向くと考えられ、距離の不安も軽減されるともいわれている。
レース後の飯田調教師は「1600mも持つことが分かった」とコメントをしているが、良馬場で同じように逃げていたとしても、粘れていたかどうかは分からない。今回の激走は、騎手の勇気と馬場状態が見事に噛み合った結果と言える。
一方、テイエムサウスダンの他にも距離不安が囁かれていた馬がいた。最終的には1番人気に推されたレッドルゼル(牡6歳、栗東・安田隆行厩舎)である。
こちらはキャリア2回目の1600m戦となったが、金沢のダート1400mの条件で行われたJBCスプリント(G1)を快勝していることや、昨年の根岸Sをテイエムサウスダンよりも0.8秒も速いタイムで走破して勝利していることもあって、カフェファラオよりも人気を集めてレースを迎えた。
川田将雅騎手も会見で「1600mは長いと思う」とハッキリとコメントしていたことから、同馬の距離適性については、陣営も半信半疑だったに違いない。
テイエムサウスダンの岩田康騎手が、根岸Sで試みたのと同じく、レースではゲートを出てからも積極的に位置を取ることはなく、川田騎手も中団での待機策を選択。先頭から6番手あたりの位置で直線に向いたが、「道中も直線も動くことができず、この馬らしい走りができぬままゴールという感じでした」というコメントの通り、持ち味である差し脚を発揮することができないままに終わった。
前に行く馬たちがバテて下がって来ることもなく、前が開かない状況のままで、ステッキも思うように使えないような状況でのゴール。当然ながら本来のパフォーマンスを発揮することができたとは言えず、距離の不安が的中したというよりも、不完全燃焼の印象も残った。
当然、レースが前残りになるかどうかは、ゲートが開いた時点では分かるはずもなく、距離に対して不安を持っている馬で、積極的に運ぶことができないというのはよく分かる。
しかし、同じく距離が不安視されたテイエムサウスダンの激走を見ると、レッドルゼルが前目に運んで、そのスピードを活かして勝負に行っていたら……、結果は違ったものになっていたかもしれない。
先行勢が有利な当日の馬場コンディションを考慮し、成功したトライアルでの試行錯誤から臨機応変に切り替えたベテランジョッキーと、自身の感覚を信じて控えたトップジョッキー。2022年JRA最初のG1レースでは、両者のスタイルが明暗を分かつ結果となったのではないだろうか。
文=木場七也(きば・ななや)
<著者プロフィール>
29歳・右投右打。
本業は野球関係ながら土日は9時から17時までグリーンチャンネル固定の競馬狂。
ヘニーヒューズ産駒で天下を獲ることを夢見て一口馬主にも挑戦中。