フェブラリーS(G1)楽勝劇に心中複雑? 主戦・戸崎圭太騎手よりも心配な“あの「珍記録」ジョッキー”の気持ち
19日、東京競馬場で行われたダート王決定戦フェブラリーS(G1)は、1番人気のレモンポップが勝利。最後の直線で早めに抜け出す横綱相撲で、G1初制覇を飾った。
無事にスタートを切った段階で、レモンポップの勝利はほぼ決まっていたのかもしれない。すんなりと好位につけると、最後の直線では追い出しを待つ余裕の走り。残り300mで満を持す形で先頭に躍り出ると、テン乗りだった坂井瑠星騎手が「僕はただ乗っているだけでした」と振り返るほどの楽勝だった。
この結果に心中複雑だったのは、レモンポップの主戦・戸崎圭太騎手か。
レモンポップは「戸崎騎手と共に出世してきた馬」と言っても過言ではない存在だが、今回は先約の関係でドライスタウトに騎乗した戸崎騎手。その結果、代役として抜擢されたのが坂井騎手だった。
そんな経緯もあり『競馬ラボ』の人気インタビュー連載『週刊 戸崎圭太』では、フェブラリーSのライバルを聞かれた際「そりゃあ、レモンポップでしょう(笑)」と話していた戸崎騎手。
「あの馬の方が先行はしているでしょうから最後に差し切れれば」というイメージ通りの展開になったが、最後は4着まで追い上げるのが精一杯。先約を守った結果とはいえ、これまで10戦中8戦で騎乗し、全7勝を挙げた相棒のG1初制覇を間近で見届けることになった心境は、騎手として思うところがあったに違いない。
レモンポップ楽勝劇に心中複雑?
だが、レモンポップの圧勝という結果を戸崎騎手とは、また違った複雑な感情で見届けたのは三浦皇成騎手ではないだろうか。
この日、同じ東京競馬場で騎乗しながらもメインのフェブラリーSは“見学”だった三浦騎手。ただ、もしかしたら今年のG1開幕戦の表彰台に立っていたのは、このジョッキーだったかもしれない。
昨年11月にフェブラリーSと同じ東京・ダート1600mで行われた武蔵野S(G3)。当時、4連勝中だったレモンポップが単勝1.7倍という圧倒的な1番人気に支持されていたが、その快進撃を止めたのが、三浦騎手とギルデッドミラーだった。
かつてはNHKマイルC(G1)3着など芝で活躍したギルデッドミラーだが、重賞戦線で頭打ちとなり、長く勝利から遠ざかっていた。そんなオルフェーヴル産駒に転機が訪れたのが、昨夏のダート転向であり、三浦騎手との出会いだ。
「ダート(のレースを使うようになって)から乗っていますが、跨った時に『これはモノが違う』と感じていました」(武蔵野Sの勝利騎手インタビュー)
後に三浦騎手がそう振り返っている通り、ギルデッドミラーはダート初戦のNST賞(OP)で約1年半ぶりの復活勝利を挙げると、続くグリーンチャンネルC(L)でも2着。そして、武蔵野Sでレモンポップを破って重賞初勝利を飾るなどメキメキと頭角を現している。
その後、2頭は先月の根岸S(G3、ダート1400m)でも激突。コンマ1秒差の接戦で、今度はレモンポップに軍配が上がったが、「1600mはギリギリ」と話した戸崎騎手とは対照的に、三浦騎手は「マイルならもっと良くなる」と自信を深めていた。
しかし、そのわずか10日後、ギルデッドミラーの電撃引退が発表されるなど誰が予想できただろうか。フェブラリーSに向けた調教後に右前脚繋靭帯の炎症と、第一指骨の剥離骨折が判明。そのまま無念の引退となってしまった。
この“悲報”には関係者だけでなく、多くの競馬ファンからもSNSや掲示板などで故障引退を残念がるコメントが続々……。
だが、そんな中でも三浦騎手は最も大きなショックを受けた1人に違いない。自身が連載する『東京スポーツ』のコラムでは「ぜひこの馬と一緒にG1を…と思っていただけにショックは大きい」と無念が綴られていた。
そして、迎えたこの日、同じ東京競馬場でレモンポップの圧勝劇を見届けた三浦騎手は何を思っただろうか。JRA通算985勝を挙げながらG1未勝利という状況は、昨年先輩の藤田伸二元騎手から「珍記録」と揶揄されるほどの記録になってしまっている。
競馬にタラレバは禁句だが、レモンポップの圧勝劇に改めてギルデッドミラーの不在を惜しんだファンは少なくなかったはずだ。