JRA川田将雅、戸崎圭太「距離長い」も騙されたファンは少数!? 不運な結果に泣いた騎手、笑った騎手…フェブラリーS(G1)の天国と地獄

レモンポップ

 先週末の東京競馬場で開催されたダートのマイルG1、フェブラリーSを制したのは、1番人気のレモンポップ(牡5、美浦・田中博康厩舎)。前哨戦の根岸S(G3)からの連勝を決め、一気に短距離路線の頂点まで上り詰めた。

「このような人気になっている馬でチャンスを頂いて、何とか結果で応えたいと思っていたので、凄くホッとしています」

 鞍上の坂井瑠星騎手がそう振り返ったように、レモンポップとはこれが初コンビ。G1で1番人気に支持された有力馬の依頼が舞い込んだことも、若手の実力派に対する関係者からの評価の高さが伝わってくる。テン乗りで快勝と満点回答で応えたあたりも、坂井騎手がトップジョッキーの仲間入りに近づいていることを証明しただろう。

 ただレモンポップを管理している田中博康調教師としては、1600mという距離に壁を感じていた様子。2着に敗れた昨年の武蔵野S(G3)の後に、オーナーとの話し合いでフェブラリーSに向かうことは決まっていたようだが、他馬に比べて出走の表明が遅かったことを考えると、陣営の迷いが見え隠れする。

 好位から抜け出す危なげないレース運びで完勝したレモンポップに対し、後方から鋭い末脚を伸ばして2着に追い上げたのが、川田将雅騎手が騎乗したレッドルゼル(牡7、栗東・安田隆行厩舎)だ。

 陣営から常々「距離克服」というキーワードが出されている馬だが、フェブラリーSへの出走は今年で3度目。これまで2021年(3番人気4着)、22年(1番人気6着)と凡走していた。敗れはしたものの、今年は3番人気に推されて2着と初めて馬券圏内に食い込む健闘を見せた。

「距離長い」も騙されたファンは少数!?

 終わってみれば、戦前に距離不安を囁かれていた2頭のワンツー決着なのだから、関係者からすれば嬉しい誤算といえる。これだけそれぞれの陣営から不安視するコメントがありながら、レモンポップが1番人気、レッドルゼルも3番人気だったのだから、ファンの多くが“ネガティブな言葉に騙されなかった”ということか。

 上位2頭の陣営については「嬉しい誤算」といったところだろうが、結果的に「喜べない誤算」となってしまった側にも3点ほど触れておきたい。

 まず1つ目は、武蔵野Sでレモンポップを撃破したギルデッドミラーの陣営だ。根岸Sでライバルの逆転を許したが、こちらは距離延長を歓迎する側だった。もしフェブラリーS出走が叶っていれば、1番人気に支持された可能性もあったはずだ。天敵の不在が出否を迷うレモンポップ陣営の背中を押した可能性もある。

 だが、直前に右前脚繋靭帯の炎症と第一指骨の剥離骨折が判明したため電撃引退。主戦を任されていた三浦皇成騎手にとっても、悲願となるJRA・G1初優勝も懸かっていただけに痛恨のアクシデントだった。

 2つ目は、スタートで落馬寸前の大出遅れが致命傷となったメイショウハリオ(牡6、栗東・岡田稲男厩舎)と浜中俊騎手のコンビだ。直線で最後方から大外に持ち出すロスがありながら、3着まで巻き返しに成功。スムーズなスタートに成功していたなら、レモンポップの戴冠はなかったかもしれない。

 最後は、4着に敗れたドライスタウトに騎乗した戸崎圭太騎手だ。優勝したレモンポップとのコンビでフェブラリーS前まで8戦7勝2着1回とほぼ完璧な結果を残していた。ファンの大半がコンビ継続と推測していた訳だが、大一番でドライスタウトに騎乗。先約があったのか、戸崎騎手自身が選択したのか、実際のところは明確になっていないものの、もしレモンポップ陣営が出走決断を先延ばしにしたことと無関係でなかったなら、あまりにも気の毒な乗り替わりだったようにも感じる。

 いきなりG1級の馬から騎乗依頼のあった坂井騎手は、昨年の朝日杯フューチュリティS(G1)のドルチェモアに続くテン乗りでG1・2勝を手にする幸運に恵まれた。勿論、チャンスをしっかりとモノにした手腕は称賛に値するが、このときもデビューから2戦2勝と結果を残していた横山和生騎手からの乗り替わり。勝負の世界では珍しくないことではあるが、降板を告げられた側の胸中は複雑だったに違いない。

 G1という華やかな舞台の裏で泣いた騎手、笑った騎手。それぞれが天国と地獄に分かれた今年のフェブラリーSといえないだろうか。

高城陽

大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。

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