JRA矢作芳人、中内田充正厩舎退け「無名の厩舎」がリーディング1位に! 覚醒・奥村武厩舎の絶好調ぶりに内助の功?

 フェブラリーS(G1)と1回東京開催が終わり、2023年のJRAも中央開催が2か月分終了したことになる。これまでの成績を振り返ってみると、騎手リーディングや馬主リーディングはお馴染みの面々が並ぶが、調教師リーディングでは、見慣れない名前が1位の座に輝いている。

 美浦所属の奥村武厩舎だ。

 昨年のリーディングトレーナー矢作芳人厩舎や中内田充正厩舎、関東トップの斎藤誠厩舎や国枝栄厩舎といったトップトレーナーを上回る単独の10勝で、これには妥当というより驚いたファンも多かったのではなかろうか。というのも奥村武厩舎の過去5年の順位を見てみると、

2018年 全国 36位(25勝)
2019年 全国142位(10勝)
2020年 全国 68位(19勝)
2021年 全国 66位(21勝)
2022年 全国 35位(27勝)

 と、トップ10どころかトップ30ですら一度も入っていないからだ。

 しかし今年は成績が一変。勝率は31.3%(2022年は11.9%)、連対率46.9%(同21.6%)、複勝率46.9%(同30.4%)と驚異的な飛躍。矢作厩舎の勝率10.7%、連対率17.3%、複勝率22.7%と比較すると、その凄さがよくわかる。

 しかもキャリア10年目で、重賞は4勝のみでG1は未勝利。奥村武厩舎を除くリーディングトップ5はすべてG1を5勝以上しているのだから、異色の存在といえる。

 驚くべきは、ここまで出走回数はわずか32回で10勝という成績だろう。矢作厩舎が75回で8勝だから効率の良さが目立つ。しかも管理馬は46頭にもかかわらず、73頭の矢作厩舎を勝ち星で上回っているのだから、狙ったレースでしっかり結果を出していることがわかる。

 これまで大きく目立つことがなかった奥村武調教師とはどんな人物か。

 奥村武調教師は、調教師試験を3度目のチャレンジで突破。当時のインタビューでは中学2年生の頃から調教師になることを夢見ていたという。きっかけは1989年のジャパンC(G1)で、ホーリックスとオグリキャップによる歴史に残る叩き合いに影響を受けたとのこと。

 その後は親の意向もあって大学を卒業し、北海道にあるディアレストクラブ(育成牧場)に就職。2年半ほどの下積みを経てJRA競馬学校に合格し、高橋義博厩舎の厩務員となった。その後、国枝厩舎に移籍して調教助手になり、調教師を目指して試験を受けたという。

 調教師となって2年目からは、安定して毎年10勝以上を勝利。開業4年目にライジングリーズンのフェアリーS(G3)で重賞初制覇。続いて2021年にクールキャットでフローラS(G2)、2022年にノースブリッジでエプソムC(G3)、2023年もノースブリッジでAJCC(G2)を制覇と、着実に階段を上がっている。

 まったくノーマーク的存在だった奥村武厩舎が、これほどの成績を残せるようになった理由は何か。現場の記者に話を聞くと意外な答えが返ってきた。

覚醒・奥村武厩舎の絶好調ぶりに内助の功?

「実は、奥村武調教師は昨年結婚しています。お相手はオーナークラブのパーティーで知り合った方のようですね。トレセンの世界は特殊ですが、奥様は競馬にも興味があるとのことで、仕事にも理解があるようです。そのおかげで奥村武調教師も厩舎業務に専念できているので、それが好循環に繋がっているかと思います。とはいえ、これまで地道に積み重ねてきた経験や人脈、信頼があっての好成績なのはもちろんです。今後は馬を預ける馬主さんも増えるでしょうし、いい風が吹いているのではないでしょうか」(美浦記者)

 やはり牧場時代、厩務員、調教助手、調教師の長いキャリアで培ったノウハウや、馬主や騎手との信頼関係があってこその結果であることは間違いない。そして、46歳にして伴侶を得たことで厩舎業務に集中できる環境ができたことが、現在の成績に表れているようだ。

 ちなみに今週の奥村武厩舎は、得意の中山開催に5頭を出走させる。


【土曜】

中山 3R 3歳未勝利(ダート1800m)グランシャスール
中山 8R 4歳以上1勝クラス(ダート1800m)キタサンドーシン

【日曜】

中山 4R 3歳未勝利(ダート1800m)フルハウス
中山 5R 3歳未勝利(芝2000m)ホウオウヒショウ
中山10R ブラッドストーンS(ダート1200m)スズカコテキタイ


 今年は中山コースの芝で【2.1.0.4】(勝率28.6%・連対率42.9%)、ダートは【2.1.0.2】(勝率40%・連対率60%)と安定。特にダート1200mは【2.0.0.0】で2戦2勝。芝1200mは【1.0.0.0】で1戦1勝。データは少ないながら、1200m戦は3戦全勝と圧倒的な成績を残している。

 以上の実績を考えると、この5頭はどれも軽視はできないが、中でもブラッドストーンS(3勝クラス)のスズカコテキタイは要注意。現在、中山ダート1200mを2連勝中で、東京開催をパスしてここを目標に仕上げてきたのは明白だ。このまま厩舎の無敗記録を伸ばすことができるのか。

 この勢いのまま2023年のリーディングトレーナー争いで台風の目となれるか、開業10年目にして覚醒した奥村武厩舎に注目したい。

仙谷コウタ

初競馬は父親に連れていかれた大井競馬。学生時代から東京競馬場に通い、最初に的中させた重賞はセンゴクシルバーが勝ったダイヤモンドS(G3)。卒業後は出版社のアルバイトを経て競馬雑誌の編集、編集長も歴任。その後テレビやラジオの競馬番組制作にも携わり、多くの人脈を構築する。今はフリーで活動する傍ら、雑誌時代の分析力と人脈を活かし独自の視点でレースの分析を行っている。座右の銘は「万馬券以外は元返し」。

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