パンサラッサ、サイレンススズカ、キタサンブラック、ツインターボ…競馬史に輝く華麗な逃げ馬達。JRA弥生賞の逃げ馬トップナイフと横山典弘騎手の戦略は?
サウジC(G1)を逃げ切り「世界のパンサラッサ」が誕生したが、これは再び逃げ馬の時代を象徴する出来事かもしれない。
JRAでは、定期的にその時代を代表する逃げ馬が誕生している。圧倒的なスピードで逃げ切る馬もいれば、意表をつく大逃げでファンもライバルもアッと驚かせた馬もいる。騎手と阿吽の呼吸によって描かれる逃げは、美しさと儚さを兼ねそろえており、展開を語る上で避けては通れないものだ。
かつてJRAで活躍した逃げ馬を挙げると枚挙に暇がない。ファンにとっても印象に残る逃げ馬は多岐に渡るだろう。そこで1990年以降にJRAで活躍した、代表的な逃げ馬を振り返ってみたい。
競馬史に輝く華麗な逃げ馬達
まず3歳クラシックで活躍した逃げ馬といえば、皐月賞(G1)と日本ダービー(G1)を制した二冠馬サニーブライアンとミホノブルボンは外せない。菊花賞(G1)でスペシャルウィークに0.6秒の差を付けたセイウンスカイと横山典弘騎手の逃げも印象的。さらに1秒も更新するレコードタイムで日本ダービーを快勝したアイネスフウジンも記憶に残る逃げ馬だ。
古馬になって逃げ馬として覚醒した馬も多い。
宝塚記念(G1)と有馬記念(G1)をともに人気薄で逃げ切ったメジロパーマーは、全9勝のうち7勝を逃げで制している。クラシック未出走だったエイシンヒカリは、デビュー2戦目から逃げに転じ、国内ではG1は勝てなかったものの香港カップ(G1)とイスパーン賞(G1)を制している。もともと先行馬だったキタサンブラックは、菊花賞を制した後に逃げ馬となり、逃げて天皇賞・春(G1)、ジャパンC(G1)、有馬記念を勝利している。
最強の逃げ馬として評価の高いサイレンススズカも忘れられない一頭だ。
全9勝のうち8勝が逃げでのもの。宝塚記念や毎日王冠(G2)などを制しており、逃げて勝利した着差の合計は6秒。なんと1レース当たり平均0.75秒もの差を付けている計算になる。
牝馬では有馬記念とエリザベス女王杯(G1)を逃げて制し、天皇賞・秋(G1)はウオッカと接戦を演じたダイワスカーレット。マイル路線で活躍し、牡馬相手に一歩も引かない逃げを見せたNHKマイルC(G1)馬アエロリットが思い出される。
ダートは逃げ馬が特に多いが、インパクトがあるのはスマートファルコンだろう。
出遅れたドバイワールドC(G1)を除けば、とにかく逃げて逃げまくった馬。国内で9連勝を決めた時もすべて逃げ切りで、全23勝中18勝が逃げ切りだ。さらに東京大賞典(G1)、JBCクラシック(G1)などを勝利したコパノリッキーも、ダート界で印象に残る逃げ馬。差して勝利したレースもあったが、引退レースの東京大賞典を逃げて勝利したのは感慨深いものがあった。
ここまではG1実績のある逃げ馬を挙げたが、G1未勝利でも印象に残る逃げ馬は少なくない。
代表的なのは、競馬アプリ『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)でも人気のツインターボ。さらに往年のファンには懐かしいアンブラスモアやサイレントハンター。特にサイレントハンターは、主戦がパンサラッサの主戦でもある吉田豊騎手であり、逃げの技術はこの馬で築いたといっても、まったく的外れな意見ではないだろう。さらにマイル路線で徹底的に逃げに拘ったシルポート、快速馬が揃うスプリント路線で逃げにこだわったハクサンムーンやエイシンワシントンなど。“勝ちにこだわるのではなく、逃げにこだわる”という姿勢は、多くのファンから支持を集めている。
現役馬ではサウジCを制したパンサラッサ、天皇賞・春と菊花賞を逃げて勝利したタイトルホルダーが2強を形成。昨年の宝塚記念ではタイトルホルダーが勝利したが、パンサラッサにとってはベストの距離でなかったのも事実。芝2000mの天皇賞・秋であれば、同じ結末にはなるまい。
また、以前からパンサラッサを管理する矢作芳人調教師は、凱旋門賞(G1)を勝つなら逃げ切りと周囲に語っていた。その言葉を証明するかのようなサウジCの勝利は、これから逃げ馬が増えていくことを示唆しているかもしれない。
そういった意味でも、今週末に行われる皐月賞トライアル弥生賞ディープインパクト記念(G2)は注目の一戦だ。
有力馬の一頭であるトップナイフは、初勝利時と前走のホープフルS(G1)を逃げて2着に好走。まだ脚質は固まっていないかもしれないが、もしここでも逃げるのであれば、鞍上が横山典騎手であることを考えると、二冠馬セイウンスカイを彷彿させる。