「26年ぶり」武幸四郎以来の快挙が一瞬で霧散…18歳ルーキーの“ホロ苦”重賞初騎乗。新人・佐藤翔馬に与えられた1分37秒

トーラスジェミニ

「小桧山先生と柴原オーナーに感謝です。ワクワクしています」

 今週、ちょっとした話題になっていたのが、ダービー卿CT(G3)に挑むトーラスジェミニ(牡7歳、美浦・小桧山悟厩舎)の鞍上だった。

 小桧山調教師から「重賞に乗った経験がプラスになってくれれば」と抜擢されたのは、愛弟子の佐藤翔馬騎手。先月デビューしたばかりの18歳のルーキーだ。

 ここ4走で二桁着順に大敗するなど、かつての精彩を欠いているトーラスジェミニだけにカンフル剤的な効果が期待されたが、この異例の抜擢の真意は「馬」のためだけではないだろう。佐藤騎手はデビュー以来、22戦0勝(3月31日現在)。まだ勝ち星に恵まれていないだけに「初勝利が重賞だったら面白いですね」と興奮を隠せない様子だった。もし、初勝利が重賞になれば1997年の武幸四郎騎手以来、26年ぶりの快挙だ。

 しかし、そんなルーキーの晴れ舞台は、わずかコンマ数秒で大きく暗転してしまった。

武幸四郎以来「26年ぶり」快挙が一瞬で霧散…

 16頭立てのレース。スタートして間もなくコーナーがある中山・芝1600mは序盤のポジショニングが大きなカギを握る。だが、トーラスジェミニはスタートで煽ってしまい痛恨の出遅れ……。かつて七夕賞(G3)を勝ったダッシュ力は見る影もなく、馬群から大きく取り残された。

 レース前「この馬の持ち味が生きるように前めで競馬したい」と意気込みを語っていた佐藤騎手だが、描いていた青写真はあっという間に崩れ去った。

 結局、トーラスジェミニはその後、一度も馬群に取りつくこともなく終始最後方。最後は前の馬から大差をつけられる最下位でゴールした。

「スタートで出遅れた際、同時に1番人気だったレッドモンレーヴも出遅れたため、スタンドが大きくどよめきましたが、もしかしたらトーラスジェミニと佐藤騎手を応援していたファンの声も混じっていたかもしれません。

ただ前走の中山記念(G2)でも、スタートから原優介騎手がかなり押して行ったのですが、先行集団に取りつくのがやっとだったように、トーラスジェミニ自身の加速力が落ちてしまっているようです。原騎手も『テンにもたつくのが現状の課題』と話していただけに、仮にまともにスタートできていても、前めで競馬するのは難しかったかもしれません。陣営も色々と手は尽くしているそうですが……。

佐藤騎手にとってはほろ苦い初重賞になってしまいましたが、この経験を糧にして頑張ってほしいですね」(競馬記者)

 単勝328.7倍の15番人気で16着。着順だけを見れば、決して騎手が責められるような結果ではない。しかし、佐藤騎手はまったく納得してはいないはずだ。

 勝ち馬から4.1秒も遅れた走破時計1:37.3は、同日同舞台で行われた3歳1勝クラスの最下位よりも遅い絶望的な結果だ。ただ見方を変えれば、佐藤騎手は「最も長くレースをしていた騎手」ともいえる。

 今年2月に惜しまれつつ引退した福永祐一騎手も、デビュー3年目でキングヘイローと挑んだ日本ダービー(G1)で「緊張にのまれて、頭が真っ白になった」と振り返るほどの挫折を味わっている。そこから這い上がり、ダービーを3勝する名手に成長したことはあまりに有名だ。

「駐立を上手くできず、煽って出てしまいました。申し訳ないです」

 師匠、オーナーから与えられた佐藤騎手の約1分37秒。これを生かすも殺すも、ここからの本人次第だろう。福永騎手があの日本ダービーを大きな糧にしたように、2023年のエイプリルフールはジョッキー佐藤翔馬にとって忘れられない1日になったかもしれない。

GJ 編集部

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