史上最も遅い「未勝利以下」のタイムでも大満足! 50年ぶり重馬場の皐月賞(G1)で復活したキタサンブラックVSサトノクラウンの死闘
「最後は力で押し切ってくれましたし、本当に凄い馬です」(キタサンブラック 武豊騎手)
「最後まで頑張ってくれましたが、なかなか勝った馬が止まりませんでした」(サトノクラウン M.デムーロ騎手)
2人のトップジョッキー、そして2頭のトップホースの明暗が分かれた2017年の天皇賞・秋(G1)は、競馬史に残る不良馬場の中で行われた。
1番人気のキタサンブラックがスタートで出遅れるというまさかのアクシデントがあったものの、最後の直線では同世代のライバル・サトノクラウンとの一騎打ち。一方のサトノクラウンも稀代の重馬場巧者として、この条件で負けるわけにはいかなかった。
現役No.1の座を懸けた2頭の叩き合いは、最後は力強くキタサンブラックがサトノクラウンの前に出てゴール。だが、あまりにも重い馬場にライバルたちが次々と脱落していく文字通りの死闘となった。
どれくらい酷い馬場だったのかは、2:08.3という異例の勝ち時計が物語っている。
これは天皇賞・秋が現行の2000mに短縮された1984年以降で最も遅い勝ち時計。いや、それまでの“最遅”がプレクラスニー(メジロマックイーンの降着で2着繰り上がり)の2:03.9だったのだから、それほど遅い時計だった。
つまりこの年の天皇賞・秋は現役No.1決定戦であると同時に、現役No.1の重馬場巧者決定戦でもあったわけだ。時計だけを見れば2歳の未勝利戦よりも遅いタイムだろうが、このレースを観た誰もが2頭が見せた本物の強さを心に刻んだはずだ。
あれから6年が過ぎた2023年の皐月賞(G1)。このレースが「重馬場」で行われたのは、なんと1973年のハイセイコーまで遡らなければならない。不良馬場を合わせても、ドクタースパートが勝った1989年から34年ぶりだ。
そんな異例の一戦を制したのが、2017年の天皇賞・秋で現役No.1の重馬場巧者に輝いたキタサンブラックの仔ソールオリエンスだった。そして先に馬群から抜け出し勝ち馬に最後まで抵抗した2着タスティエーラは、サトノクラウンの仔である。
レース前の共同会見で「種馬として成功してほしい」とサトノクラウンにエールを送っていたタスティエーラの堀宣行調教師は、この結果に満足しただろうか。それともやはり、“あの時”と同じく打倒キタサンブラックへ、さらなる闘志を燃やしているのだろうか。
一方のキタサンブラックは、昨年のイクイノックスに続いて2世代続けてG1馬を送り出すこととなった。現役時代は競馬史に残る逃げ馬としてならした本馬だが、産駒は逆にキレッキレの脚を使うから競馬は面白い。続く日本ダービー(G1)はキタサンブラックが現役最大の苦戦を強いられたレースだけに、息子ソールオリエンスのリベンジに掛かる期待はことさら大きくなる。
無論、他のライバルたちも黙ってはいないだろう。特にキタサンブラックとサトノクラウンと同世代のドゥラメンテの産駒であるタッチウッドの逆襲は見ものだ。今年の牡馬クラシックはまだ開幕したばかりだが、まずは父から受け継いだ重馬場巧者ぶりがモノを言ったソールオリエンスとタスティエーラを中心に回っていく。