【ケンタッキーダービー出走特別連載】物語は続いていく。4人のホースマンの夢を繋いだ日本ダービー馬「絆(キズナ)」の物語<3>
またも思い知らされる世界の壁。だが、前田幸治と武豊の飽くなき”夢”は終わらない
世界の強豪を抑えてのニエル賞の勝利は、キズナに対する欧州での評価を一気に上げることとなった。
キズナに現地の馬房を貸したトニー・クラウト調教師も「凱旋門賞でも有力馬のベスト5には入る」と絶賛。斤量の関係上、3歳馬が圧倒的に有利な凱旋門賞の歴史もキズナの評価を後押しした。
だが、快挙を成し遂げたチーム・キズナはまったく浮足立っていなかった。何故なら、続く本番の凱旋門賞には前田幸治や佐々木晶三、そして武豊といった日本のホースマンが幾度となく、その怪物じみた強さを思い知らされた馬がいるからだ。
日本競馬が誇る第7代三冠馬”金色の暴君”オルフェーヴルである。
皐月賞、日本ダービー、菊花賞のクラシック三冠だけでなく有馬記念、宝塚記念と数々のG1を勝利。そして何よりも昨年の凱旋門賞でクビ差の2着……世界の頂点へあと一歩に迫った歴史的名馬が「今回こそ」のリベンジに燃えていた。
実際にキズナが3歳限定のニエル賞で海外初勝利の快挙を成し遂げた同日、オルフェーヴルはもう一つの前哨戦フォア賞(G2)を3馬身差で圧勝。凱旋門賞の本命候補に推されていた。
そして迎えた10月6日。チーム・キズナにとって、いよいよ世界の最高峰への挑戦が始まった。
凱旋門賞には、前哨戦でキズナに後塵を拝した英ダービー馬ルーラーオブザワールドやフリントシャー、さらには仏ダービー馬アンテロなど、世界のトップホースが集結。オルフェーヴルと並んで本命候補だったドイツの強豪ノヴェリストが直前で回避を決断したことで、人気はオルフェーヴルに集中した。
オルフェーヴルもキズナの陣営も万全の仕上げに悔いはなかった。人事を尽くし、あとは結果がついてくることを信じて待つだけだった。主要な前哨戦2つを制していた日本では、数多くの競馬ファンが悲願達成を心待ちにしていた。