日本ダービー大健闘も「悔しくて眠れなかった」義理堅い穴男・丸田恭介が縁の馬と挑む安田記念(G1)
2023年もカレンダーが6月まで進み、上半期のG1戦線も残すところあと2つとなった。今週末4日には東京競馬場の5週連続G1開催のラストを飾る安田記念(G1)が行われる。
今年はG1馬が10頭も集結したことで戦前から大きな注目を浴びているが、そんな中で心配なのが週末の天候だ。
梅雨前線の発達と台風の接近によって関東地方は2日から3日にかけて傘マークがズラリと並んでおり、しかも「警報級の大雨に注意を」という呼びかけも目に入る。いくら水はけの良い東京競馬場といっても、馬場の悪化は避けられそうにない。そうなれば、強豪揃いの一戦とはいえ、馬券としては波乱の決着にも気を配りたいところ。
そこで期待したいのが、ナランフレグ(牡7歳、美浦・宗像義忠厩舎)である。
今年で7歳、この安田記念がキャリア通算35戦目となる短距離路線のベテラン。年明け初戦のオーシャンS(G3)は9着に敗れたものの、不良馬場での開催となった高松宮記念(G1)では勝ち馬から0秒3差の4着と特殊なコンディションの中で奮闘を見せた。
昨年の高松宮記念も重馬場で勝利を挙げているように、渋った道悪の馬場も苦にしないタイプ。どんな馬場状態でも後方からしっかりと脚を使えるというのがストロングポイントで、その期待をより膨らませるのが先月のNHKマイルC(G1)の結果である。
安田記念と同じ東京・芝1600mで行われた一戦は、雨の影響で馬場状態は稍重のタフな戦いとなると、逃げ・先行馬が軒並み大苦戦。馬券内に突入した3頭はすべてコーナー通過順が2ケタ台という後方待機勢の決着となり、3連単26万0760円の波乱決着となった。「道悪得意」「差し・追い込み脚質」という点で、ナランフレグにも激走の期待が高まる。
芝の1600mはキャリアで1度だけ走って9着に敗れているが、それがちょうど1年前の安田記念だった。初めての距離で大外18番枠という厳しい初期条件の中、外から上がり33秒1の脚を使って走破タイムは1分32秒7をマーク。勝ち馬のソングラインとは0秒4差だから、9着とはいえ決して悲観するような内容ではない。
しかも当時は良馬場での開催で、上位に来た馬はほとんどが32秒台の上がりを使ったキレ味自慢の馬たちだった。馬場が渋ることでもう少し上がりが掛かるようになれば、道悪でもしっかりと脚を使えるナランフレグにとっては好都合と言える。
そして、今回も鞍上には同馬のことを知り尽くした丸田恭介騎手がいるというのは頼もしいポイントだ。
同騎手はナランフレグの全34戦中26戦で手綱を取っている主戦であり、昨年の高松宮記念では人馬ともにG1初勝利を掴み取ったという名コンビでもある。
先週はデビュー17年目にして日本ダービー(G1)に初騎乗。16番人気で単勝287.2倍のホウオウビスケッツとのコンビだったが、最後の直線では勝ったタスティエーラとともに一時は先頭に躍り出るかというシーンを作るなど、見せ場たっぷりの6着と大健闘した。
しかし、丸田騎手は『スポーツ報知』の取材で、初めてのダービーを振り返った際に「悔しくて眠れませんでした」と正直な感想を吐露。自身には「もっとできたんじゃないか……」という思いが残ったと言い、満足どころか肩を落としていたという。
その悔しさの裏には、陣営からの計らいに応えられなかったという部分もあったのだろう。
初めてのダービー騎乗の2時間前、丸田騎手にとってメインレース前最後の騎乗となったのが8Rの青嵐賞(2勝クラス)。ダービーと同じ芝2400mの一戦で騎乗したのがホウオウユニコーンだった。
その馬名の通り、馬主はダービーで騎乗したホウオウビスケッツと同じ小笹芳央氏。さらに厩舎も同じ奥村武厩舎の管理馬である。初めての大舞台に向けて、オーナーも調教師も万全のバックアップをしてくれた中、あと一歩のところで恩返しをしきれなかった無念……。周囲の目には大健闘に映っても、騎手としては悔しさの方が大きく残ったようだ。
思えば、ナランフレグで高松宮記念を制した際も、自身のG1初勝利の喜びよりも「宗像先生にはずっとお世話になっていて、恩返しできたと思うと幸せです」と口にした丸田騎手。17年のキャリアでJRA・G1の騎乗数は19回と、大舞台に参加できるチャンスはそう多くないと身をもって理解しているからこそ、目の前のひと鞍で恩義に応えたいという想いは人一倍強い。
ダービーで得た経験と悔しさを糧に、今年は縁の馬とともにあっと驚く一撃を。昨年の高松宮記念では3連単278万円超、秋のスプリンターズS(G1)でも3連単46万8950円と大舞台で波乱を演出してきたナランフレグと丸田恭介騎手のコンビに期待したい。