有馬記念(G1)元天才騎手の“涙”から30年…17万人が酔いしれた「武豊×オグリキャップ」のラストラン!競馬ブーム真っ只中に起きた2つの奇跡

『東スポレースチャンネル』より

「泣いてないと俺は言ったんだけどね」―――。

 1993年12月26日、師走の寒空のもと中山競馬場で行われた第38回有馬記念(G1)は感動のフィナーレを迎えていた。

 1番人気のビワハヤヒデが直線早め先頭に立ち、前月の菊花賞に続くG1・2勝目が目前に迫る中、本馬を猛然と外から交わし去ったのはトウカイテイオーだった。4番人気に支持されたクラシック二冠馬だが、投じられた多くは“応援馬券”ともいわれた。実際にトウカイテイオーの複勝は売れ行きが悪く、8番人気止まりだったほどだ。

 それもそのはず、トウカイテイオーは前年の同レースで1番人気を裏切り11着に惨敗。その後にキャリア3度目の骨折があり、同年の有馬記念が実に1年ぶりの実戦だった。その実力は認めつつも、多くのファンは「まずは無事に」「何とか次のレースに繋げてほしい」という気持ちで見守っていただろう。

 しかし、トウカイテイオーはそんなファンの心配を吹き飛ばすかのように、直線半ばでビワハヤヒデを交わすと、そのまま先頭でゴールに飛び込んだ。奇跡を目撃したファンも眼前で起こっていることが飲み込めず、ワンテンポ遅れてから大きな歓声が沸き上がった。

元天才騎手が導いた1年ぶりのリベンジ

 そんなトウカイテイオーに跨っていたのは田原成貴だ。現在『東京スポーツ』で活躍する元天才騎手が、昨年12月に公開されたYouTube『東スポレースチャンネル』で発したのが冒頭のフレーズである。改めて30年前の勝利ジョッキーインタビューを確認してみたが、やはり彼の目には光るものがあった。

 結果的に1年ぶりのレースで復活勝利を遂げた93年のグランプリがラストランとなったトウカイテイオー。そのレースは長い日本競馬史上でも最も感動を呼んだレースの一つとして今も語り継がれている。

 またトウカイテイオーから遡ること3年前、1990年の有馬記念で感動の復活劇を遂げたのは、地方・笠松出身の芦毛の怪物・オグリキャップである。

 オグリキャップが活躍したのは1980年代後半。スーパークリークやイナリワンらとともに「第2次競馬ブーム」を巻き起こしたが、その中心に常にいたのはオグリキャップだった。

 3歳時(当時は4歳表記)の1988年に有馬記念を制したオグリキャップは、89年にマイルCS(G1)、90年に安田記念(G1)と3つのG1タイトルを獲得していた。

 ところが5歳秋になって、成績は急降下。キャリア30戦目の天皇賞・秋(G1)で、デビューから初めて掲示板を外す6着に敗れると、続くジャパンC(G1)は全く見せ場を作れず、11着と大敗を喫した。

 それまで完全無欠のスーパーホースと考えられていた馬が、まるで別馬のように2戦連続で凡走し、溢れんばかりの闘志も見せなかったことで評価は急落。手のひらを返すが如く、「オグリはもう終わった」と評するファンも少なくはなかった。

「完全に終わった馬」―――。オグリキャップにそういう審判が下されて迎えたのが第35回有馬記念だった。

武豊騎手 撮影:Ruriko.I

 オグリキャップの背中にいたのは当時21歳の武豊。若き天才は20歳にして全国リーディングに輝くなど、新たな競馬界のスターとしてすでにその名を全国に轟かせていた。

 スターホースにスタージョッキーが跨るのはこれが2度目。期待を胸に膨らませた17万人のファンが中山競馬場に詰めかけたが、天才が手綱を取るにもかかわらず、オグリキャップはホワイトストーン、メジロアルダン、メジロライアンに次ぐ4番人気という評価だった。

 逃げ馬不在の一戦は、序盤から超スローペース。有力各馬が折り合いに苦労する中、オグリキャップと武は完璧に折り合っていた。

 3~4角にかけてメジロアルダンらが早めに進出。それと並ぶように抜群の手応えで先頭に並びかけていったのが、終わったはずのオグリキャップだった。最後の直線で先頭に立つと、外からメジロライアン、内からホワイトストーンの2頭の急襲に遭ったが、最後まで並ばれることはなく、1着でゴールイン。数十秒後に沸き起こった“オグリコール”は、30年以上たった今でも鳥肌ものだ。

 トウカイテイオーとオグリキャップ。当時を知る競馬ファンにとって、この時期に必ず思い出すのが、競馬ブームの真っ只中に起こった2つの奇跡ではないだろうか。

タイトルホルダー 撮影:Ruriko.I

 今年はタイトルホルダーら数頭が有馬記念を最後に引退するが、我々ファンは感動的なフィナーレを目撃することになるのか。その時を今から楽しみに待ちたい。

(敬称略)

GJ 編集部

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